研究員は既に、4つのピリジル基を有するフェロセン配位子FcLと銀イオンを混合することにより、巨大な内部空間を有するフェロセンナノチューブ(以下FcNT)が自己組織化的に形成されることを明らかにし、その酸化還元に伴う超分子挙動を解明している。更なる研究展開として、研究員は今年度、このFcNTの内部にゲスト分子を包摂させることを試みてきた。その研究過程で包接を行うために適切な溶媒を検討したところ、ある条件下でFcNTが巨視的な繊維状材料を形成することを偶然見出した。これまでの多孔性材料が結晶質の粉末としてしか得られなかったことを考えると、繊維状に加工できたという本発見は非常に新規性が高い。ここから大きく研究の方向性を変え、この新規繊維状材料の解析、応用を目指すこととした。 剛直な棒状有機配位子を含む金属錯体は、優れた設計性と多孔性を有することから近年注目されているものの、ほとんどの系で粒子としてのみ得られ加工性に乏しいことが欠点であった。今回我々は、以前報告した金属錯体ナノチューブが多孔性繊維へと変換可能であることを見出した。これは孔を有する有機金属化合物からなる繊維の初めての例である。 FcNTをアセトニトリル中5mMになるよう分散させたところ、分散液がリオトロピック液晶相を発現することを見出した。このリオトロピック液晶をトルエン中に注入したところ、液晶紡糸と同様の原理で繊維を構築できることが示唆された。現在、リオトロピック液晶の相図作製、および繊維の多孔性の評価を行っている。
|