研究課題
本研究では、磁性体中のマグノン励起がどのように「スピンゼーベック効果 (熱的スピン流生成現象)」の発現を担っているのかを解明することを目的とする。スピンゼーベック効果の微視的な理解が深まることで、スピンゼーベック素子の熱電変換能を向上させるための指針が得られれば、スピンゼーベック型熱電変換デバイスの実現及び、今後の環境調和型の発電技術の発展に貢献できると考えられる。平成27年度の主な成果は、以下の2点である。(1) マグノンによる熱的スピン流生成効率に周波数依存性があることを見出した: スピンゼーベック素子のプロトタイプとなっているイットリウム鉄ガーネットY3Fe5O12(YIG)バルク-Pt薄膜接合構造を用いて、スピンゼーベック効果の磁場・温度依存性を系統的に測定した。その結果、本試料構造におけるスピンゼーベック効果の信号が高磁場印加により抑制され、その抑制率は低温下で増大することを実験的に見出した。低周波のマグノン励起はゼーマンギャップにより高磁場下で抑制されるため、これは低周波マグノンがスピンゼーベック効果によるスピン流生成に強く影響することを示唆する結果といえる。(2) 多層膜構造におけるスピンゼーベック効果の増大を観測: マグネタイトFe3O4薄膜-白金Pt薄膜接合を多層膜構造化することで、スピンゼーベック効果によって生じる熱起電力信号が劇的に増大することを見出した。系統的な積層数依存性や物質依存性測定などを通じて、Fe3O4-Pt多層膜構造において観測された大きな熱起電力信号の起源が、境界条件の変調に伴うスピン流空間分布の増大であることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度の研究により、熱的スピン流生成効率にマグノン周波数依存性があることが明らかとなった。これはスピンゼーベック効果によって誘起されたスピン流とマグノン励起との関係性を解明する上で重要な知見であると考えられる。また、本年度に実証した多層膜型のスピンゼーベック素子によって、従来利用することのできなかった磁性体内部を流れる大きなスピン流を有効活用することができるようになった。本成果はスピンゼーベック効果の熱電変換応用に向けての新しい指針になると考えられる。以上より、当初の目的達成に向けて、研究を順調に遂行できていると判断する。
平成28年度は、イットリウム鉄ガーネットY3Fe5O12(YIG)のYサイトの希土類置換に伴うマグノン分散関係の変化が、スピンゼーベック効果によるスピン流生成にどのように影響するかについて研究を進める予定である。特に、マグノンのヘリシティの変化とスピンゼーベック効果の符号変化との関係性を明らかにすることを目指す。
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Proceedings of the IEEE
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