研究課題
本研究では、磁性体中のマグノンやフォノンなどの素励起がスピンゼーベック効果の発現にどのように関与しているかを解明することを目的とする。スピンゼーベック効果の微視的な理解が深まり、スピンゼーベック素子の熱電変換能を向上させるための指針が得られれば、スピンゼーベック型熱電変換デバイスの実現及び、今後の環境調和型の発電技術の発展に貢献できると考えられる。平成28年度の主な成果は、以下の2点である。(1) スピンゼーベック効果の発現においてマグノン励起が必須であることを示した:我々のこれまでの研究により、スピンゼーベック効果の発現には磁性体層のマグノン励起が不可欠であることが示唆されていたが決定的な証拠はなかった。そこで、マグノンの熱励起を完全に抑制できると考えられる強磁場(14 T)・低温(2 K)下におけるスピンゼーベック効果の磁場依存性測定を系統的に行った。すると本条件下において、スピンゼーベック信号が完全に抑制されることが明らかとなった。これは、スピンゼーベック効果の発現にマグノン励起が必須であることを示す確固たる証拠であり、スピンゼーベック効果の発現機構解明に向けた前進と言える。(2) マグノン-フォノン混成粒子がスピンゼーベック効果を増大させる新原理を見出した:Y3Fe5O12/Pt接合におけるスピンゼーベック効果を高い磁場分解能で測定したところ、マグノンとフォノンの分散関係の相対位置関係を反映して異常なピーク信号が現れることが確認された。実験・理論の両面からのアプローチにより、本現象は、磁気弾性相互作用によって形成されるマグノン-フォノン混成粒子が運ぶ長寿命なスピン流に起因することを明らかにした。本研究により、マグノン流に比べて長寿命なフォノン流をスピンゼーベック効果に利用可能であることが示され、スピンゼーベック効果の高効率化へ向けた新しい指針が得られたと言える。
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度の研究により、スピンゼーベック効果に対するマグノン由来シナリオの確固たる証拠が得られ、かつ、マグノン-フォノン混成粒子によるスピンゼーベック効果の増大という興味深い結果を得ることができた。特に後者に関しては、マグノン流だけでなくフォノン流もスピンゼーベック効果に利用可能であることを示しており、スピンゼーベック効果の熱電変換応用に向けての新しい指針になると考えられる。以上より、当初の目的達成に向けて、研究を順調に遂行できていると判断する。
平成29年度は、イットリウム鉄ガーネットY3Fe5O12(YIG)の光学マグノンモードによるスピンゼーベック効果の実証を目指す。また、YIGのYサイトの希土類置換に伴うマグノン分散関係の変化が、スピンゼーベック効果によるスピン流生成にどのように影響するかについて研究を進める予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
AIP Advances
巻: 7 ページ: 055915
10.1063/1.4974060
Physical Review B
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 85 ページ: 065003
10.7566/JPSJ.85.065003
Applied Physics Letters
巻: 108 ページ: 242409
10.1063/1.4953879
Proceedings of the IEEE
巻: 104 ページ: 1499
10.1109/JPROC.2016.2577478
Physical Review Letters
巻: 117 ページ: 207203
10.1103/PhysRevLett.117.207203
巻: 109 ページ: 243902
10.1063/1.4971976