本研究の目的は,光を用いた音響測定によって観測されるデータが光路上の積分値になる問題を解決し,二次元に投影された測定データから三次元音場を復元する手法を確立することである.前年度の研究では,光学的音響測定システム自体を発展させ,並列位相シフト干渉法を用いた二次元位相分布の高速測定を実現した.本年度は,そのシステムに対して複数の信号処理手法を提案することにより,システムがもつ本質的な計測誤差の低減を行った.具体的には,干渉縞の非線形誤差と位相ソフト誤差に起因するノイズを低減する手法を提案した.また,本研究の主目的である三次元音場の復元について,音響現象の物理モデルに基づくモデル化の検討と,その解析手法の具体的な提案を行うことで,光路上積分された複数の観測データから,積分される前の各点における音圧を復元することに成功した. これらの成果により,これまで以上に高精度に並列位相シフト干渉計測を行えるようになった.また,二次元に投影された測定データから三次元音場を復元する手法を提案したことにより,光学的音響測定手法の最大の難点である,光路上積分される観測原理を克服し,光学的音響測定手法の適用範囲を大幅に広げることに成功した.これまで測定不可能だった音場を計測可能にしたという音響的な成果に加え,より一般の位相シフト干渉計測に対する提案をすることができ,今後の精密計測の新たな可能性を示すことができたと考えられる.今後,これらの手法により実現した高精度な光学的音響測定手法を,現実の音響問題に適用することで,産業的に有意義で効果的な計測手法が実現できると期待される.
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