室温で強磁性と強誘電性を併せ持つことが期待されるニオブ酸リチウム酸化物群A3+Fe3+O3を拡大することを目的に研究を進め、InFeO3を15 GPa・1450 度で合成することに成功した。SPring-8 BL02B2で測定した放射光X線回折パターンをRIETAN-FPを用いて結晶構造解析することで結晶構造をニオブ酸リチウム型と決定した。また、高温高圧下でのin-situ XRD測定により、15 GPaでは800 度以上で直方晶ぺロブスカイト型InFeO3が生成することがわかった。いくつかのABO3酸化物は高圧下で直方晶ぺロブスカイト型に相転移した後、減圧時にニオブ酸リチウム型に変化することが知られており、InFeO3も同様の機構によりニオブ酸リチウム型が安定化されたと考えられる。結晶構造解析から得た構造パラメータ―をもとに点電荷モデルを用いて計算した自発分極は86.2 μC/cm2であった。この値は他のニオブ酸リチウム型酸化物で報告されている値と比べて大きい。超伝導量子干渉計を用いた磁化測定の結果からニオブ酸リチウム型InFeO3は室温で強磁性的な挙動をとっていることがわかった。さらに、57Feメスバウアー測定とイギリスの中性子ビーム施設(ISIS)で測定した中性子粉末回折パターンに基づく磁気構造解析から、ニオブ酸リチウム型InFeO3においてFe3+のスピンはc軸に垂直に向いており、G型反強磁性配列をもつが、ab面内で傾いているため強磁性的挙動を示していることがわかった。解析から得た磁気モーメントの温度依存性をべき乗側により解析したところ、この物質の磁気転移点は545 Kと室温以上であることがわかった。さらに、その臨界指数は0.34と磁気構造から予想される値(0.32)と非常に近かった。このことは、磁気構造解析が妥当であることを示している。以上の結果から、ニオブ酸リチウム型InFeO3は室温で強磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイック物質であることがわかった。
|