研究課題/領域番号 |
15J08073
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大森 康智 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | スピンホール効果 / スピントロニクス / 金属強磁性体 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究でも着目する超伝導体中での準粒子状態を介したスピンホール効果に関する論文が掲載された(Nature Material 14, 675-678 (2015))。私は当論文において、有限要素法を用いた3Dシミュレーションによる解析を行った。ジョセフソン接合へのスピン注入素子の作製にあたり、銅細線やニオブ細線が微細加工プロセスによって劣化する可能性があることが明らかになった。銅細線及びニオブ細線のプロセス困難性から、超伝導体としてタングステン(W)を用いることを考えた。超伝導体(S)としてタングステン、常伝導体(N)として銅ビスマスを用いたS/N/S型のジョセフソン接合を作製している。 また、近年強磁性体中でスピンホール効果が発現することが明らかになってきており、強磁性体のスピンホール効果を用いることで注入スピン流のスピン量子化軸の選択性が向上すると考えられている。一方で強磁性体のスピンホール効果の発現機構は明らかになっておらず、その機構解明を行うことが重要になったことから、スピン吸収法を用いて強磁性体パーマロイやニッケル、鉄、コバルトなど3d遷移金属強磁性体においてスピンホール効果及び異常ホール効果の測定を行い、その温度依存性、膜厚依存性を調べた。 金属のスピンホール効果において、理論的な機構はあるが、裏付ける実験はなされていなかった。そのためスピンホール効果について、抵抗率等のパラメータ依存性が理論と一致するか調べ、理論の正当性を確認することが重要であった。そこで、スピンホール効果を発現する典型的な金属として知られるプラチナについて、スペインのFelixらと共同で、その抵抗率依存性を測定し、従来知られる内因性スピンホール効果及び外因性スピンホール効果を両方考慮することで説明できることを示した。更に物質固有の値である内因性スピンホール伝導度を、プラチナについて得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに超伝導体窒化ニオブへのスピン注入、準粒子状態を介したスピンホール効果の測定を、当時同研究室の若村太郎さんらと共同で行った。特に私は有限要素法を用いた3Dシミュレーションにより、スピン流注入界面近傍での形状効果による逆スピンホール電流の振る舞いを調べた。本研究ではさらにこの結果を踏まえ、超伝導状態のジョセフソン接合へのスピン注入を行うことが肝要となる。当初の計画ではスピン輸送に銅細線、超伝導体ニオブ、スピンホール効果を起こす物質としてビスマス添加銅を用いる計画であったが、銅細線及びニオブの腐食容易性を突き止め、両物質を同時に用いることが困難であることがわかった。そこで、収束イオンビームにより堆積されたタングステンを超伝導体として用いることにした。現在、タングステンとビスマス添加銅によるジョセフソン接合の適切な寸法を調べている。一方で強磁性体中でのスピンホール効果を用いることでスピン流の量子化軸の選択性が向上ことが近年示唆されていることを受けて、従来の面内スピンバルブの構造では難しかった向きのスピンを注入できると考えたが、強磁性体のスピンホール効果に関してその発現機構は明らかになっていない。また室温の測定のみ報告されているため、本研究で着目する低温領域を含む温度依存性を、パーマロイ、ニッケル、鉄、コバルトについて測定し、適切な強磁性体の選択及びその機構解明を試みた。 また、そもそも金属系のスピンホール効果について標準的な理論である外因性及び内因性のスピンホール効果について実験的な検証が行われておらず、スピンホール効果の研究を行う上で無視できない問題であると考え、プラチナについてスペインのFelixらのグループと共同でプラチナにおけるスピンホール効果の抵抗率依存性の測定から、外因性及び内因性スピンホール効果の分離を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、ニオブや銅細線が試料作成プロセスに耐性が不十分であることが分かったので、物質を変更し、超伝導体ニオブの代わりにタングステンを用いてジョセフソン接合の作製を行う。今後は収束インビームを用いた堆積によるタングステンの超伝導特性の評価、タングステン/ビスマス添加銅/タングステンのS/N/Sジョセフソン接合の超伝導特性の評価を行う。然るのちに面内スピンバルブ構造を用いたスピン注入素子を作製し、スピンホール効果による電流を観測する。 また、強磁性体のスピンホール効果の結果をまとめ、機構解明を目指す。スピンホール効果の第一原理的計算を含む、理論的な考察を行いたいと考えているため、スペインのFelixらや、イギリスのMartinらと共同で解釈を行う。
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