本研究では、mTOR分子の活性制御について調べるため、蛍光タンパク質で内在性mTORや関連分子を標識し、PI3K-Akt-mTOR経路を定量的に解析、数理モデル化することを目指した。前年度までに、mEGFPノックイン細胞を樹立しており、これに対しFCSを用いることによって内在性タンパク質の定量が行えることを示した。これに基づき、mTORC2の構成因子であるRictorへのmEGFPノックインを行い、顕微鏡観察したところ細胞質に点状の局在が見られた。これは免疫染色で見られるものと一致していた。そこで、FCSを行ったところ、褪色の影響が大きく正しくパラメーターを得られなかった。これは、オルガネラ上に局在しているために拡散速度が非常に遅いためだと考えられた。このようなものへのFCSによる定量は適さないため、異なる方策を取る必要があった。 本研究の特性はノックインとFCSを用いて内在性分子の定量的解析を行う点にある、そこで、PI3K-Akt-mTORと密接に関連するEGFR-Ras-MEK-ERK-RSK経路の動向について調べることにした。このために、すでに樹立していたMAPK1(ERK2)-mEGFP細胞のRSK2遺伝子にHaloTag遺伝子をノックインし、EGFを投与した際のERK2とRSK2の相互作用についてFCCSで定量を行った。結果として、EGFによってERK2とRSK2の結合率が低下することがわかった。さらに、MEK阻害剤によって、投与前の結合率が上昇すること、EGFによる結合率低下を抑制できることがわかった。本研究により、ノックイン細胞とFCSを用いることによって、内在性分子の動的な相互作用の変化を観察することが示された。
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