研究実績の概要 |
本年度は,昨年度に引き続きコンパクトな曲面の写像類群上のランダムウォークについて研究した. ランダムウォークで得られる元をランダム写像類と呼ぶ.以降,ランダム写像類に関する主張は漸近的に確率1で成り立つ場合に,断定の形で述べる.J. Maherにより,ランダム写像類は擬アノソフとなることが知られていた.写像類に対しては写像のべき,持ち上げにより被覆関係が定義される.そのような被覆で定義された被覆関係において,写像類群上に通約関係を定義する事ができる.本年度はランダム写像類の通約性についてまとめた論文「Fibered commensurability and arithmeticity of random mapping tori」がジャーナル「Groups, Geometry, and Dynamics」に受理され,最終校正などをおこなった. ランダムウォークの曲面上の力学系についても研究を行った.曲面上の微分同相写像に対して,位相的エントロピーと呼ばれる,写像のベキにより区別されうる軌道の数の指数的増大度を測る不変量が定義されている.ランダムウォークに対しても微分同相写像のアナロジーとして位相的エントロピーが定義できる.Thurston は擬アノソフ微分同相写像の位相的エントロピーはタイヒミュラー空間上のtranslation の長さと一致することを示していた.その値は,曲面上の任意リーマン計量における,任意の本質的単純閉曲線の長さの指数的増大度とも一致する事も知られている.本年度の研究では,ランダムウォークに関しても同様の結果が成り立つ事を示した.本結果により,Thurston の一連の結果の``ランダム化”ができたと言える.
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