今年度は本研究プロジェクト開始前に入手したマレー半島西岸のPM試料(PM2.5、TSP(Total Suspended Particulates))に対する様々な化学分析・解析に注力した。以下に主要な成果を示す。
①マレー半島西岸に位置するマレーシアのBangiにおいて、インドネシアの泥炭火災の影響を受けたヘイズ期間にTSP試料を集中的に捕集し(平成26年に筆者が実行)、様々な化学成分分析を通してインドネシアの泥炭火災の影響の有無によるTSP化学性状の違いを明らかにした。得られた化学性状データに基づいて炭素フラクションのOPとOC4の濃度比がたとえインドネシアの泥炭火災の影響が軽度でも使用可能な泥炭火災発生源の指標であることを見出した。
②長期観測(1年間)から得られたマレーシアのPetaling Jaya(マレー半島西岸)におけるPM2.5試料(マレーシア国民大学のTalib教授の研究グループより提供を受けた試料)を対象に化学分析を行い、種々の化学成分の年間変動を明らかにした。マレーシアにおけるバイオマス燃焼に由来する有機化合物を対象としたPM2.5長期観測は本研究が世界で初めての試みである。また、1年間の化学成分濃度データに対して多変量因子分析ツールの一つであるPMF(Positive Matrix Factorization)モデルを適用してPM2.5濃度に対する泥炭火災寄与率を推定した。PMFとChemical Mass Closureモデルを用いて再現したPM2.5質量濃度は、南西モンスーン季(6~9月)に泥炭火災発生源寄与率が急激に増加した。また、2011~2012年のPetaling JayaにおけるPM2.5質量濃度は、インドネシアの泥炭火災の影響が無ければ、日本が定めるPM2.5の年平均濃度の環境基準値を達成し得た。
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