最終年度にあたる平成29年度は、前年度までの研究に引き続き、本研究課題に関わる若干の各論的問題(投資条約の改廃およびICSID条約の廃棄)に検討を加えるとともに、それら具体的論点について得られた知見を包括的かつ整合的に説明するための理論的枠組みの構築を行い、研究全体のまとめとした。また研究成果の一部については単独の論文として投稿も行った。 ICSID条約廃棄の問題については、2015年から2017年に立て続けに出された重要なICSID仲裁判断例(Venoklim事件、Blue Bank事件、Valores Mundiales事件、Fabrica事件)の比較検討を行ない、研究会で報告を行なった。また投資条約の改廃については二国間条約実行の収集を行なうとともに、シンガポール最高裁高等法院によるSwissbourgh事件判決の分析も行なった。 研究全体にとって特に重要な成果として、『法学論叢』に投稿した「投資条約の解釈統制と投資家の『客観的』国際法主体性」が挙げられる。そこでは、条約全当事国の合意による解釈統制の内容およびタイミングに対する法的制約の存在を論証し、それぞれが投資条約の公的性質および投資条約仲裁手続きのハイブリッド=トランスナショナルな性質から説明されると論じた。後者の、投資家の国際法主体性に対する仲裁手続準拠法の側からの国際私法的規律の存在を指摘できたことは、極めて大きな成果であった。また、前者の点については、前年度に学会報告を行なった非金銭的救済の問題との関連で、『国際法外交雑誌』に論稿を投稿した。 研究全体は、博士論文「投資条約仲裁における投資家の国際法主体性の理論と実践」として京都大学に提出した。今後、その内容をより充実させつつ、公表の準備を進める。
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