研究課題/領域番号 |
15J08226
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋元 陽平 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ロマン主義 / 自伝 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究指導委託先受入研究者の指導に基づいて、同時代の医学と哲学を中心とする制度的学知が作家の老い、そして老いを通して開陳される自己認識を巡る記述に与えた影響を探るというアプローチを取った。1)研究対象となる19世紀前半において医学者のみならず一般に広範な影響力を持ったとされるパンクック医学辞典(1812-1822)を中心に、「老年期」「四体液論」「生気論」ならびにその関連項目を調査した。 2)シャトーブリアンが自らの「感情の茫漠」「メランコリー」といった概念を自ら護教論に織り込む過程で同時代の医学的言説をしばしば無自覚に借用したことを論じる近年の先行研究(とりわけロラン・カンタグレル「病からエクリチュールへ ロマン主義的メランコリーの生成」2004年)を調査した。 3 )こうした医学的言説はさらに、シャトーブリアンの同時代の作家のテクス トにおいてはしばしば啓蒙思想やコンディヤックら感覚論者の哲学と並置され、「感じやすい魂」「憂鬱」「老い」といった主題の理論的背景を形成している ように思われる。そこでこの傾向が最も顕著な作品の一つであると考えられる セナンクール『オーベルマン』(1804)を、ディドロ、コンディヤックの関連テクストとの影響関係を念頭に精読し、先行研究の有無を調査した。 また、研究をより俯瞰的に位置づけるため、同時代の重要な思潮(とりわけドイツ・ロマン主義、ビーダーマイヤー文化)の概観につとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度において提出された「自伝的語りにおける老い」という研究テーマは、 研究指導委託において得た示唆によって、「自己認識」と「老い」の両方の前提されている歴史的コンテクストへの問い、とりわけ前ロマン主義文学におけ る医学と哲学の浸透という先行研究の乏しい未踏の問題系へと拡大した。これ は研究により具体的かつ鳥瞰的な視野を与えたという点において大きな前進であるが、あくまで研究対象とする作家の個別研究における特異性に立脚した上でテクスト分析の対象を充分に選定しなければ、コーパスの無際限な拡大を免れない。この点、未だ扱う文学テクストの選定を正当化するための調査はまだ端緒についたばかりであると言える。しかし先行研究の整理ならびに同時代の文学・文化史を巡る理解は前年度に比べ充実したため、概ね期待通りに研究が進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)スタール夫人における情念論の位置づけについて検討する。 2)18世紀啓蒙思想における混合感情の問題について先行研究を精査する。
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