研究課題
今年度の実験計画に基づき、バクテリアタンパク質膜透過装置Sec膜タンパク質複合体の結晶構造を明らかにするための実験を進行させた。特に、プロトンの濃度勾配を利用しタンパク質膜透過を促進するSecDF複合体に注目して研究を進めた。SecDFは膜貫通領域とペリプラズム側の可溶性ドメインを持ち、可溶性ドメインが「F型」、「I型」と呼ばれる2つの異なるコンフォメーションを取るとされてきた。しかし、I型の全長構造は未知であった。そこで、SecDFのI型構造決定を目指し、研究を行った。グラム陰性細菌由来のSecDFを大腸菌内で発現させた後、各種カラムクロマトグラフィーを用いた精製を行い、結晶化に十分な純度でのタンパク質を取得した。LCP法による結晶化を行い、スクリーニングの結果、測定に必要な大きさの単結晶を取得した。大型放射光施設Spring-8における測定により、最高で2.6オングストローム分解能のデータセットの取得に成功した。以前に報告されたF型SecDFの構造を用いた分子置換法により、位相決定を行い、わずかに異なる複数のI型SecDFの構造を決定した。あるSecDFの構造では、可溶性ドメインのくぼみに結晶化時に添加した小分子が結合していた。生化学的な実験を行ったところ、このくぼみに膜透過タンパク質が結合することが明らかとなった。また、小分子結合型SecDFでは、膜貫通領域の内部に細胞膜を貫通するトンネル構造が見られた。また、このトンネルの中心にはSecDFのプロトン透過活性に必須のアスパラギン酸が存在していた。コンピュータシミュレーションにより、このトンネルの内部に水分子が入り込み、一列に並ぶ様子が観察された。この水分子を介してプロトンの流入が起こると考えられる。これらの結果をまとめ、SecDFによる新たなタンパク質膜透過モデルを提唱した。
2: おおむね順調に進展している
SecDFの高分解能構造解析に成功し、その構造情報を基にした機能解析とあわせて新たなタンパク質膜透過モデルを提唱することができた。タンパク質の膜を超えた輸送という生命に不可欠な現象に関わるSecDFの機能メカニズムの解明は、当該分野の基礎研究に大きく貢献するものであると考えている。また、SecDFはバクテリアに特有かつ重要なタンパク質であることから、SecDFを標的とした新たな抗生物質の開発のための構造基盤として利用されることも期待される。
研究計画に基づき、SecYEGを含むより高次の複合体構造の決定を目指す。構造が決定できれば、構造情報に基づいた遺伝学的、生化学的なアッセイにより膜透過現象の詳細な解明を目指す。
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Cell Reports
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