研究課題/領域番号 |
15J08261
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
山本 陽平 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 分子シャペロン / シャペロニン / タンパク質フォールディング / サブユニット間協調作用 / Chaetomium thermophilum |
研究実績の概要 |
グループ2型シャペロニンCCTは真核生物の細胞内でタンパク質フォールディングをおこなう主要な分子シャペロンである。CCTでは8種類のパラログが特定の配置でオリゴマーを形成している。CCT構成サブユニットは、ATP親和性や基質結合性に差異があるが、オリゴマーとしての機能への寄与は不明である。そのため、本研究では各サブユニットの構造・機能の違いを考慮したCCTの反応機構モデルを提唱することを目的としている。 本年度は大腸菌組換え体発現系の構築に成功し、従来では困難だった生化学的解析を進めた。 まず好熱性真菌Chaetomium thermophilumを購入し、培養条件を最適化することで、必要量の菌体を確保した。次にC. thermophilumからRNAを抽出し、cDNAを合成して、これを鋳型にPCRをおこなうことで各種CCT遺伝子を獲得した。次に8種類のパラログ全てを共発現するプラスミドベクターを設計・構築した。構築したプラスミドを用いて大腸菌を形質転換することで、組換え体としてCCT複合体を発現した。発現後、各種クロマトグラムを用いた精製により、目的とするCCT複合体を獲得した。CCT複合体については、まず基本的な機能、構造を解析した。その後、各サブユニットの活性中心であるアスパラギン酸残基をアラニン残基に置換したCCT HYD変異体を作成し、ATPase活性、及びタンパク質フォールディングにおけるサブユニットの機能を解析した。結果、Luciferaseリフォールディング活性は、概ね各サブユニットのヌクレオチド親和性との相関が見られた。一方ATPase活性は、半数のCCT HYD変異体において、野性型CCTを上回る活性が示された。これらより、各サブユニットでのATPase活性が互いに制御されること、その協調的な構造変化がタンパク質フォールディングに重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
好熱性真菌Chaetomium thermophilum由来CCTの大腸菌組換え体発現系の構築に成功し、構造・機能の基本的な解析も順調に進行した。 当初研究予定だった各サブユニットによる基質認識については、2014年11月に他のチームによる重要な研究がCell誌に発表されたため、計画を一部変更して研究を進めている。一方で、同論文で提唱されたCCT構造変化モデルについて、高速AFM及びDiffracted X-ray Trackingによる単分子構造変化解析をおこない、検討を進めている。 また、サブユニット間協調作用に関する機能解析では、ATP加水分解欠損変異体を用いた解析から、従来予想されていなかったサブユニット間制御に関する重要な知見を得ることができた。現在はこれらの結果を精査すると共に、異なるタンパク質のフォールディング活性との比較などを通じて、タンパク質認識、ATPase活性制御、及びタンパク質フォールディングとの関係性を調査している。 一連の研究成果により、2015年11月に臨床ストレス応答学会 若手研究奨励賞を受賞した。 これらより、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
サブユニット間協調作用に関する研究では引き続き、各サブユニットの持つ機能に着目して研究を継続する。特に今年度観察されたATP加水分解活性のサブユニット間制御について、構造変化およびタンパク質フォールディングとの関係性の詳細な解析をおこなう。また、サブユニット間での制御機構がどの様な経路を経由するのかを、欠損変異体などの作成及び解析により特定する。 各サブユニットによるタンパク質認識機構については未だに定量的な情報が不足している点から、この点について研究を進める。具体的には表面プラズモン共鳴による相互作用解析を考えている。 本研究課題は平成28年度が最終年度であるため、課題終了までに得られた情報を統合し、各サブユニットの構造・機能を考慮したCCTの反応機構モデルを提唱する。
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