研究課題/領域番号 |
15J08268
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山口 皓平 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | Electris solar wind sail / Asteroid deflection / Kinetic energy impactor / Electrostatic tractor / Coulomb force attractor |
研究実績の概要 |
本研究は,地球に衝突する恐れのある小惑星に対し,宇宙電磁環境を利用した効果的な軌道変更手法を検討するものである. 本年度は,帯電させた導電性テザーで太陽風を受け止めることで推進する,帯電セイルを用いて宇宙機を加速し小惑星に衝突させる,帯電セイルKinetic Impactor (KI)を検討した.まず,実在する小惑星の軌道要素を元に,15年後に地球と衝突する質量100万tの架空小惑星を作成した.次に,1 tの質量を衝突させる帯電セイルKIを仮定し,その軌道変更能力を調査した.結果として,1 AUよりも大きな半長径を持つApollo群小惑星に対しては十分な軌道変更距離が達成可能である一方,より小さな半長径のAten群小惑星には,軌道変更距離が小さくなることを明らかにした.また,薄膜鏡で太陽光を反射することで推進する,ソーラーセイルを用いたKIについても検討し,結果の比較と,推力特性に基づく考察を行った.また,これらの成果を筆頭著者として論文化し,今年度1月に出版された. これらと平行して,小惑星と宇宙機を人工的に帯電させ,発生するクーロン力を用いて小惑星を牽引し軌道変更する,クーロン力・アトラクタについての検討も行った.まず,昨年度までに定式化した,一般的な回転座標系における宇宙機の運動方程式を,より小惑星の軌道変更ミッションに適した形に変形した.これは,宇宙機と小惑星との距離,回転座標系に対する位置を表す角度を変数とするものである.更に,得られた運動方程式を小惑星近傍で線形化し,宇宙機のダイナミクス解析と,制御則の構築を行った.ダイナミクスの解析から,各変数間のカップリングが無視できるほど小さく,独立であるとみなせることを明らかにした.更に,構築した制御則を非線形方程式に適用し,制御則が適用可能となる条件を示した.また,以上の成果を筆頭著者として論文化し,現在査読中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
帯電セイルKIについては,複数の小惑星に対する解析を行うことで,小惑星の軌道要素と達成可能な軌道変更距離の関係を明らかにした.また,当初は28年度に実施予定であったソーラーセイルKIの解析についても本年度に一部実施し,帯電セイルKIとの結果比較及び性能評価を行うことができた.更に,この成果に関する論文の出版も行っており,研究が順調に進んだと判断する.一方で,当初予定していた太陽風の緯度構造の軌道計算モデルへの反映は,現在のところ行っていない.これは,最適化された帯電セイルの軌道が緯度構造の影響を受けない領域を飛行するもののみであったことから,今後の計算結果を考慮して,その必要性を改めて判断する方が効率的であると判断したためである. クーロン力・アトラクタについては,運動方程式の導出と線形化,更に制御則の構築と数値シミュレーションによる検証までを終えた.同成果の国際会議での発表と論文投稿も行い,研究は順調に進展している.これに加えて,英国Strathclyde大学において3か月間の海外研修を行い,小惑星の帯電現象解明のためのモデルを作成した.これは,実際の小惑星の形状を表す3次元モデルを元に,小惑星の周辺プラズマとの相互作用及び内部の電位構造を計算するものである.本検討は当初予定していたものではないが,現実的な形状及び構成物質からなる小惑星が帯電可能であることが明らかとなり,クーロン力・アトラクタの基礎的な検討の進展に大きく貢献した. 以上の成果を勘案し,27年度の研究が順調に進展したと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で,帯電セイル及びソーラーセイルKIの性能比較を既に行った.そこで28年度は,これらの手法を適用する小惑星を更に増やし,より詳細に両者の性能を比較し,その性質を明らかにする.これにより,ターゲットとする小惑星の軌道要素,質量,地球最接近までの時間を対象とした,パラメトリックな解析を進める.帯電セイルKIを計算する際の太陽風の緯度構造のモデル化に関しては,帯電セイルの軌道最適化の結果,考慮する必要を認めた場合に実施する予定である.また,クーロン力・アトラクタに関しては,制御する宇宙機を複数とし,27年度に構築した制御則を適用したより複雑な制御を検討する.28年度は,宇宙機の数と達成可能な軌道変更距離,更にターゲットとする小惑星質量の関係を明らかにする.また,小惑星の帯電を解析するツールがこれまでに存在しなかったことから,複雑な小惑星の形状や構成物質を考慮した帯電の解析が不可能であった.この点について,27年度に開発した帯電解析ツールを利用することで解決を図る.実在の小惑星に基づいた帯電解析を行う事で,実現可能な帯電量や発生させることのできるクーロン力などを明らかにし,より現実的なクーロン力・アトラクタの検討を行う. 最終的には,帯電セイル及びソーラーセイルKIとの比較も行うことで,手法間の性質の違いを明らかにする.28年度の後半には,これまでの検討結果の整理を行う.各手法がどのような小惑星の地球衝突ケースに対する軌道変更手法として有効かを判断し,小惑星の発見から手法の選択,更に,得られる軌道変更効果までを明らかにする,ミッションの設計フローを確立する.
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