現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では複数種類のヒトがん細胞を用いて、内因性のMMP2ならびにCAIXを高発現し、shRNAを用いた標的ZnTのノックダウンによって酵素活性の評価が簡便に行えるようなヒトがん細胞株のスクリーニングを実施した。しかし、内因性酵素の発現量や標的ZnTのノックダウン効率の面から、条件を満たすような細胞株を見出すことができなかった。従って、ヒトがん細胞を用いた新規の酵素活性評価系を構築する必要がある。 上記解析に加え、MMP2やCAIX以外のがん関連性亜鉛要求性酵素にも新規に着目し、DT40細胞を用いてZnT4、ZnT5-ZnT6、ZnT7複合体が着目したがん関連性酵素の活性化に寄与するか否かを検討するための解析を実施した。複数のがん関連性酵素を用いて網羅的な解析実施した結果、ZnT5, ZnT6, ZnT7三重欠損株において、がん遊走因子として知られるオートタキシンの活性がほぼ完全に消失すること、酸性条件下におけるがん細胞の生存能亢進に寄与するCAXIIの活性がわずかに低下すること、そしてがん細胞の浸潤能亢進に寄与するゼラチナーゼであるMMP9の活性が低下することが明らかとなった。さらに、MMP9に関して詳細な解析を実施した結果、MMP9活性低下は、ZnTの欠損によって前駆型酵素から活性型酵素への成熟過程が阻害され、活性型酵素の発現量が低下することに起因する可能性が示唆された。また本結果を受け、MMP2に関しても再度詳細な解析を実施した結果、MMP2に関してもZnT5, ZnT6, ZnT7三重欠損DT40株において活性型酵素の発現量が低下している可能性が示唆された。すなわちZnT5-ZnT6、ZnT7複合体がMMP2、MMP9両酵素の成熟過程に寄与する共通の経路である可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、解析に適したヒトがん細胞を見出すことができなかった。加えて、これまでの解析からZnT4, ZnT5, ZnT6, ZnT7をノックアウトさせた四重欠損DT40細胞株においてもMMP2、CAIX両酵素にある程度の残存活性が認められており、これを考慮すると、ZnT複合体をノックダウンしてもヒトがん細胞における顕著な標的酵素活性の低下とそれに伴う細胞生存能・浸潤能の低下が認められない可能性が考えられた。そこで本研究員は、ZnTが、がん関連性酵素の活性に与える影響をヒトがん細胞において正確に評価するためにはヒトがん細胞に発現するZnTを直接ノックアウトするアプローチが有効であると考え、今後、CRISPR/Cas9システムによるヒトがん細胞を用いた標的遺伝子欠損-再発現実験系の新規構築を計画・実施予定である。加えて、両酵素の残存活性に寄与する因子を見出すため、DT40細胞に発現が認められる上記ZnT以外の亜鉛輸送体に着目した解析も実施する。 加えて、がん関連性酵素の中で、がん遊走因子として知られるオートタキシンは、その活性がZnT5, ZnT6, ZnT7三重欠損株でほぼ完全に消失すること、マトリックスメタロプロテアーゼMMP2、MMP9は、亜鉛トランスポーターZnTの欠損によって前駆型酵素から活性型酵素への成熟過程が阻害され、活性型酵素の発現量が低下することを明らかとした。今後は、各酵素のZnTを介した活性化機構の詳細な分子メカニズムを明らかにするため解析を実施していく。またMMP2、MMP9に関しては、両酵素をそれぞれ安定発現させたDT40野生株、ならびにZnT5, ZnT6, ZnT7三重欠損株を用いてヌードマウスへの移植実験を検討、実施し、活性型酵素量の低下による腫瘍形成能の低下が認められるか否かの検討を実施する。
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