本年度は、昨年度までの研究結果を踏まえ、本研究の仕上げ段階に入る。 昨年度までの研究により、各論者が「間接収用」と国家の正当な規制措置を区別し、補償の要否を判断する基準としていかなる基準が妥当であると考えるのかという差異は、その論者が暗黙裡に前提としている補償の根拠論の違いによって生じるものであることが明らかとなった。具体的には、補償は権利(財産権)の移転に対して支払われるものであるのか、権利の侵害に対して支払われるものであるのか、という二つの立場がある。 以上の研究結果を踏まえ、本年度は国際法上収用がいかなる制度として捉えられてきたのか、すなわち、収用に対し補償を支払わなければならない根拠はいかなるものとして論じられてきたのか、という点を明らかにするために、国際法上収用が議論され始めた1920年代以降の論考を整理した。それにより、伝統的に収用については「犠牲の平等負担」に対して補償が支払われなければならないと捉えられてきたことが明らかとなった。また、補償は権利(財産権)の移転に対して支払われるものであると捉える論者たちが根拠としてきた「不当利得」論が議論されてきた文脈が、これらの論者が用いている意味とは異なっていることも明らかとなった。 さらに、広く複数の法体系を有する国家の国内法についても検討を行ない、これらの国内法において収用に対し補償を支払わなければならない根拠が如何に捉えられているのかについて明らかにすることを試みた。
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