本年度は、人権の普遍性の議論を研究対象とした。
人権の普遍性に関連する議論は複数あるが、そのうち本研究が扱うのは、普遍主義と文化相対主義の対立である。普遍主義は、人権の普遍性は人権それ自体に埋め込まれているものであり、その主たる理由は、人権の骨子である平等性から人権を持つ者は国・地域に拘らず同様の人権を持つことが導かれるため、というものである。その中核には、人間の尊厳、平等という概念が存在する。一方、文化相対主義は、国際文書に示された人権規則は、各国の歴史、宗教、文化および種族構造を考慮に入れた上で解釈・適用されなければならないとする。こうした対立は、人権の普遍主義が国際文書の形で登場したときから現実に看守できる。国際文書における人権の普遍性に関連する文書として挙げられるのが、1993年のウィーン宣言である。同宣言は人権の普遍性および不可分性を謳うものであり、多くの国に支持を受けて採択された。一方、この前後にバンコク宣言およびクアラルンプール人権宣言がそれぞれ採択され、アジアの基本的な人権観がまとめられた。人権の普遍性との関連でいえば、ここでは、人権は国家的及び地域的特殊性と、様々な歴史的、文化的、宗教的背景に留意しなければならない旨が述べられている。
このように対立しているように見えるが、理論的にはこの対立は解消されている。すなわち、人権の普遍性はCONCEPTの段階では認められるが、CONCEPTIONおよびIMPLEMENTATIONの段階では相対性が認められるということである。CONCEPTの段階で普遍性を保つのは、機能的要請から、つまり脆弱な個人を組織的な社会の脅威から保護するために必要であるからであり、また現実に多くの国が人権という概念の存在を認めているからである。さらに、現実に内容が普遍的な人権もあると主張される。このように、両者が歩み寄る形での理論が優勢である。
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