研究課題/領域番号 |
15J08353
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 直大 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 熱電変換材料 / チムニーラダー相 / 狭バンドギャップ半導体 / 非整合複合結晶 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
今年度は具体的な材料系としてチムニーラダー相と呼ばれる化合物群に着目し,主に鉄-ゲルマニウム系新規チムニーラダー相の合成方法の確立,第一原理計算による電子及びフォノン物性の解明,そして熱電物性の評価に注力した.チムニーラダー相において第一原理計算の援用による材料探索を行った結果,580℃以下において平衡相でありRu2Sn3型構造を有するFe2Ge3が0.2eV程度の狭バンドギャップを有することが分かった.また,この相はFe副格子とGe副格子が非整合である複合結晶であると報告されており,厳密にはRu2Sn3型構造と異なるため, FeGeγと表記する.ボールミル粉砕と固相反応,そして低温・高圧条件における放電プラズマ焼結を組み合わせることによって,単相かつ高密度なFeGeγバルク試料の作製に成功した.ゼーベック係数は広い温度域にて大きな負の値を呈し,出力因子の最大値は2.2mWm^-1K^-2となった.格子熱伝導率は600K以下において,Ru2Sn3と同様に2元系チムニーラダー相の中では特異的に低い1.5Wm^-1K^-1を下回る値を呈した.無次元性能指数は573Kから673Kにおいて0.54から0.57のピーク値を示した.緩和時間一定近似の下で半古典的ボルツマン方程式を解くことで熱電特性を計算した結果,実現可能な範疇のキャリア濃度最適化や格子熱伝導率の更なる低減によりn型において1を超える性能指数を示す可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fe-Ge系チムニーラダー相FeGeγに着目した結果,高い出力因子と低い格子熱伝導率を両立する極めて有望な熱電特性が得られたことは当初の計画以上の成果であった.一方で,この化合物の評価に注力した結果,当初計画していた熱力学量計算の援用によるナノ構造作製方法の検討やフォノン物性の計算については,少々の遅れが生じている.しかし,FeGeγの特異的な結晶構造とフォノン物性を基点にして,パノスコピック構造制御の一試行を実現する道が拓けたという点において,当初の計画に新たな要素を加えつつ順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,理論計算から得られた指針に基づき,正孔ドープによるFeGeγのキャリア濃度最適化を試みる.更に,FeGeγの熱電特性を議論し,より広範な系における設計指針を提言する上で,特異的に低い格子熱伝導率の起源を探ることは重要である.そのための取り組みとして下記の2つの研究を既に進行中である.(1) Ru2Sn3型構造を有するチムニーラダー相 (Ru2Sn3, Fe2Ge3, Ru2Si3, Ru2Ge3)に対して第一原理フォノン計算を行い,フォノン分散や非調和性の観点から低格子熱伝導率の起源を探る.(2) X線回折測定及び電子顕微鏡を用いた電子回折測定と原子分解能観察により,非整合複合結晶であるFeGeγの各原子の変位変調を定量化し,低格子熱伝導率との関係を明らかにする.これらに加えて,パノスコピック構造制御の一試行として,特定の元素の添加と熱処理によって組成の異なるチムニーラダー相のドメインがナノスケールで析出し,各ドメインの界面が効果的にフォノンを散乱するようなナノ構造の実現可能性を探る.
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