強相関電子系では、電荷・スピン・軌道・格子といった固体内自由度を制御することによって、電気・磁気・弾性・熱といった固体の応答を制御する。本研究では、特に強相関電子系におけるスピン自由度と軌道自由度の結合したゆらぎを検出し、それを活かした巨大な物性応答を創出することを目標とした。まず、スピネル型酸化物MnV2O4では、J-PARCにおいて中性子非弾性散乱を用いて、従来スピン波と考えられてきた22 meV付近の磁気散乱がスピン軌道混成励起である可能性を提案し、その微視的なモデルを提唱した。また、温度変化を詳細に調べることで、その提案を裏付ける実験的な根拠を得た。さらに、SPring-8のBL43LXUにおいてMnV2O4のX線非弾性散乱実験を行い、MnV2O4のフォノンモードの同定に成功した。中性子非弾性散乱で観測された22 meVの励起の分散関係や散乱強度をモデル計算と比較したところ、フォノンではないことがわかった。以上から、スピン自由度と軌道自由度が結合した固体内素励起の存在を実験的に初めて明らかにした。次に、CoNb2O6における量子臨界点近傍での弾性定数のソフト化の起源を調べた。その起源は、横波超音波に含まれる格子回転の寄与によることを実験的に明らかにした。その大きさは、従来のf電子系の物質と比べて、はるかに大きな効果であった。立方対称場のCo2+イオンの電子状態を仮定して、格子回転を含んだハミルトニアンを理論的に導出し、スピン軌道相互作用によるスピン軌道混成効果と量子ゆらぎが結合して現れるのではないかと結論づけた。 以上のように、スピンと軌道の自由度が相関した新規な固体内素励起を発見した。また、スピンと軌道の量子ゆらぎに起因して、格子回転と呼ばれる横波音波の非対称な応答が巨大化することを発見した。
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