研究課題
ヘイズの存在を考慮した大気透過スペクトルモデルに関する先行研究では、大気構成物質(気体分子・ヘイズ粒子)の鉛直分布に、2つの点で物理的に整合性がなかった。1点目は、ヘイズ粒子の前駆物質(高次の炭化水素化合物)からヘイズ粒子への成長を解いていない点である。2点目は、ヘイズの生成と大気の温度圧力構造を独立に解いている点である。本年度は、先行研究の1点目の問題点を解決すべく、ヘイズ粒子の前駆物質からヘイズ粒子への成長を解くことを目標に、研究を行った。ヘイズ粒子の生成過程は、次の通りである。まず、恒星からの紫外線を気体分子(主にCH4)が吸収し光化学反応が起こることで、ヘイズ粒子の前駆物質が生成される。次に、その前駆物質が合体・成長を繰り返すことによりヘイズ粒子が生成される。本年度は、ヘイズ粒子の特性を決定する際に重要となる前駆物質に着目した。具体的には、前駆物質の鉛直分布(高度に対する生成量)を求めるために、光化学計算を行った。光化学計算では、先行研究を参考に308本の熱化学反応と18本の光化学反応を考慮し、独自の計算プログラムを開発した。前駆物質の鉛直分布決定後、前駆物質からヘイズ粒子への成長計算(計算プログラムは、これまでの研究において開発済み)を行うことで、最終的なヘイズ粒子の鉛直分布を決定した。決定したヘイズ粒子の鉛直分布を基に、理論的な大気透過スペクトルモデルを作成した。その結果、最近の観測と整合的な、フラットな透過スペクトルを再現することが出来た。また、ハワイのすばる望遠鏡を用いて、ヘイズの存在が示唆されているホットジュピターWASP-80bのトランジット観測を行った。今後、取得した観測データに開発した理論モデルを適用することにより、大気組成を調べる予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に基づき、おおむね順調に進展している。
2年目の計画として、放射伝達計算を行うための数値計算コードを完成させる。放射伝達計算は、Toon et al. (1989)に基づき、コード作成を行う。これに関しては、研究室にコード作成の経験があり、比較的早い段階に作成が完了する予定である。次に、開発した放射伝達計算と1年目に開発済みの光化学計算を統合し、大気構造計算コード全体を完成させる。開発した数値計算コードの性能を確認するために、地球や太陽系内惑星の大気を模擬したモデル計算を行い、先行研究のモデルと比較する。最後に、開発した数値計算コードを組み合わせ、物理的に整合性のある理論モデルを作成する。作成した理論モデルを基に、大気組成の制約が可能な惑星と観測すべき波長帯を、必要な観測精度と共に提示する。また、ヘイズの理解の手助けとなるような惑星を提案し、観測への示唆を与える。その結果をまとめ、学術雑誌に投稿する。3年目は、2年目の最後に行った観測提案を基に、岡山天体物理学観測所、ハワイ観測所の望遠鏡を使用し、トランジット観測を行なう。観測後、構築した理論モデルを観測データに適用し、観測した短周期系外惑星の大気組成を明らかにする。その結果をまとめ、学術雑誌に投稿する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
The Astrophysical Journal
巻: 819 ページ: 27~37
10.3847/0004-637X/819/1/27
A&A
巻: 584 ページ: 1~15
10.1051/0004-6361/201527464