研究課題/領域番号 |
15J08463
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川島 由依 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 系外惑星 / トランジット / 大気透過スペクトル / 大気組成 / ヘイズ |
研究実績の概要 |
ヘイズの存在を考慮した大気透過スペクトルモデルに関する先行研究では、大気構成物質(気体分子・ヘイズ粒子)の鉛直分布に、2つの点で物理的に整合性がなかった。1点目は、ヘイズ粒子の前駆物質(高次の炭化水素化合物)からヘイズ粒子への成長を解いていない点である。2点目は、ヘイズの生成と大気の温度圧力構造を独立に解いている点である。本年度は昨年度に引き続き、先行研究の1点目の問題点を解決すべく、ヘイズ粒子の前駆物質からヘイズ粒子への成長を解くことを目標に、研究を行った。 ヘイズ粒子の生成過程は、次の通りである。まず、恒星からの紫外線を気体分子(主にCH4)が吸収し光化学反応が起こることで、ヘイズ粒子の前駆物質が生成される。次に、その前駆物質が合体・成長を繰り返すことによりヘイズ粒子が生成される。本年度は、前駆物質からヘイズ粒子への成長を追うための数値計算コードを開発し、前駆物質の鉛直分布からヘイズ粒子の鉛直分布を求めた。なお、昨年度まで用いていた粒子成長計算コードは、大気中の各高度における粒子の質量平均サイズのみを計算するという単純なものであった。本年度は、各高度における粒子のサイズ分布も計算出来るよう、これまでに開発した数値計算コードを改良した。結果として、ヘイズ粒子は先行研究が仮定していたよりも広い範囲で分布すること、また、様々なサイズのヘイズ粒子が大気中で生成されることを発見した。 決定したヘイズ粒子の鉛直分布を基に、独自に開発したスペクトル計算コードを用いて、大気透過スペクトルをモデル化した。その結果、大気透過スペクトルの多様性を、中心星から受ける紫外線照射量と関係するヘイズ粒子の前駆物質の生成率の違いにより、再現することに成功した。また、構築したスペクトルモデルをスーパーアースGJ 1214bに適用したところ、観測結果と整合的な、フラットな透過スペクトルを再現することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に基づき、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
3年目の計画として、放射伝達計算を行うための数値計算コードを完成させる。放射伝達計算は、Toon et al. (1989)に基づき、コード作成を行う。これに関しては、研究室にコード作成の経験があり、比較的早い段階に作成が完了する予定である。次に、開発した放射伝達計算と1年目に開発済みの光化学計算を統合し、大気構造計算コード全体を完成させる。開発した数値計算コードの性能を確認するために、地球や太陽系内惑星の大気を模擬したモデル計算を行い、先行研究のモデルと比較する。そして、開発した数値計算コードを組み合わせ、物理的に整合性のある理論モデルを作成する。作成した理論モデルを基に、大気組成の制約が可能な惑星と観測すべき波長帯を、必要な観測精度と共に提示する。また、ヘイズの理解の手助けとなるような惑星を提案し、観測への示唆を与える。その結果をまとめ、学術雑誌に投稿する。 最後に、行った観測提案を基に、岡山天体物理学観測所、ハワイ観測所の望遠鏡を使用し、トランジット観測を行なう。観測後、構築した理論モデルを観測データに適用し、観測した短周期系外惑星の大気組成を明らかにする。その結果をまとめ、学術雑誌に投稿する。
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