芸術・文化政策は地域経済の活性化やまちづくりとして期待される一方で、科学的根拠に基づいた政策判断が行われていない。過去の研究では、芸術・文化が利用者への直接便益に加えて、家計の生活環境や企業の活動環境に対する間接便益を与えることを明らかにした。2016年度はその研究結果を基盤研究とし、主に2つの政策研究を行った。 (1)家計や企業への芸術・文化の影響が各経済主体に相互に影響を及ぼしながら、最終的に地域経済や住民の厚生水準をどのように変化させるのかを検証するため、各経済主体の相互依存関係を考慮した応用一般均衡モデルを開発し、政策シミュレーション分析を行った。その結果、芸術・文化施設のソフト面の充実に資源を投入することは第2次産業や第3次産業の労働生産性を上昇させ、家計の効用を引き上げるとともに、地域の生活環境を改善することによってさらに効用を引き上げることが明らかになった。したがって、芸術・文化政策を総合的に判断するためには、各経済主体の相互依存関係を考慮することが必要であり、住民の厚生水準の引き上げには質の高い芸術・文化に触れる機会を増やすことが必要である。 このように芸術・文化は地域経済や財政に大きな影響を及ぼすが、厳しい財源調達の中、多様な便益を最大化する効率的な芸術・文化施設の最適整備が重要である。そこで(2)直接・間接便益の複数アウトプットを考慮した包絡分析(DEA)法を行うことで、芸術・文化施設ごとの効率性の違いとその違いの要因を検証した。その結果、博物館の集積度が高ければ高いほど効率的であることや、交通機関の整備や都心からの距離、事業形態なども効率性に影響する要因となることが明らかになった。 以上のように、多様な便益を客観的に評価し政策分析につなげることは、芸術・文化のあり方の議論を成立させるためにも重要であり、政策インプリケーションへの足がかりとなる。
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