研究課題
亜鉛は、300種類を越える酵素において活性補因子として機能する。酵素が獲得する亜鉛は、分泌経路に局在する亜鉛トランスポーターZnT5により、細胞質から分泌経路内へと送り込まれるが、ZnT5が細胞質の亜鉛をどのように取り込むのか、その機構は明らかではない。銅においては、銅シャペロンATOX1が細胞質の銅を取り込み、銅酵素の活性化に関わる分泌経路の銅トランスポーターと相互作用し、銅を受け渡すことが知られる。この例から亜鉛においても、細胞質でZnT5と相互作用して亜鉛を受け渡し、亜鉛酵素の活性化に関わる「亜鉛シャペロン」の存在が予想される。本研究では、ZnT5と相互作用し複合体を形成する因子を探索し、細胞質から分泌経路のZnT5へ亜鉛を受け渡す「亜鉛シャペロン」の同定を目指している。本年度において、ZnT5と相互作用する因子の探索に用いる、HaloTagプルダウンシステム解析系の構築に成功した。すなわち、1) HaloTagの付加がZnT5の機能を阻害しないことを明らかにし、2) HaloTag-ZnT5と相互作用するZnT6を銀染色レベルで検出できることを確認した。同時に、3) プルダウンした溶液中に、HaloTag-ZnT5と相互作用する因子が、ZnT6以外にも存在する可能性を示す結果を得られた。現在、構築した解析系を用いて、「亜鉛シャペロン」の探索に最適な沈降条件の検討と、質量分析機を用いた相互作用因子の決定とを進めている。
3: やや遅れている
本年度において、亜鉛トランスポーターZnT5と相互作用する因子の探索に必要な、HaloTagプルダウン実験系の構築に成功した。具体的には、HaloTagがZnT5の機能を阻害しないこと、HaloTag-ZnT5と相互作用するZnT6を、プルダウン後の銀染色により検出できること、ZnT6以外にもHaloTag-ZnT5と相互作用する因子を検出できること、が明らかとなった。また、上記のHaloTag-ZnT5を用いたプルダウン実験系に加え、研究代表者が以前より解析を実施している、分泌小胞内への亜鉛輸送に機能する亜鉛トランスポーターZnT2についても、HaloTag-ZnT2を使った相互作用因子探索のプルダウン実験系の構築に成功した。ZnT5がユビキタスに発現し、細胞質から分泌経路(ゴルジ体、小胞体)内へ亜鉛要求性酵素の活性化に必要な亜鉛を送り込むのに対し、ZnT2は乳腺上皮細胞や小腸上皮のパネート細胞において発現し、細胞質から分泌小胞内へ多量の亜鉛を送り込むことが知られる。このようにZnT5とZnT2は機能面で大きく異なることから、相互作用する因子に関しても、何らかの差異があるものと期待される。HaloTag-ZnT5による沈降物の解析に並行して、HaloTag-ZnT2による沈降物の解析も進めることで、それぞれが形成する複合体の異同を明らかにすると共に、ZnT5に特異的に相互作用する「亜鉛シャペロン」の候補因子を同定できるものと考えている。以上のように、今後の研究の足がかりについては構築が完了したが、実際に因子を探索するための、大量に培養した細胞によるHaloTagプルダウンの条件はなお検討中である。従って、当初目標としていた、1年目での「亜鉛シャペロン」の候補因子の同定までは至っておらず、全体の進捗状況としてはやや遅れていると判断する。
HaloTagプルダウンの実験系の構築は完了しているため、引き続き大量に培養した細胞による沈降の条件検討を進め、質量分析機を用いてZnT5との相互作用因子を同定する。ZnT5とは異なる亜鉛トランスポーターである、ZnT2との相互作用因子を対照とし、細胞質からZnT5への亜鉛の受け渡しに機能する「亜鉛シャペロン」の候補を決定する。続いて、候補因子とZnT5を共発現させた細胞株を用いて、その共局在及び相互作用を、免疫染色と免疫沈降により確認する。これによりZnT5と確実に相互作用する因子を得る。ZnT5との相互作用を確認した因子については、遺伝子欠損が容易なニワトリDT40細胞株を用いて、遺伝子欠損株を樹立する。欠損株における、亜鉛要求性酵素の酵素活性、および亜鉛添加による表現型の変化を指標とし、「亜鉛シャペロン」として機能する因子を同定する。さらに、単独の遺伝子欠損で顕著な表現型が確認できない場合には、複数の因子からなるファミリーが、互いに相補して「亜鉛シャペロン」として機能する可能性を考え、遺伝子多重欠損株を樹立して解析を行う予定である。
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Pediatric Research
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