研究課題/領域番号 |
15J08488
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大西 亘 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 連続時間不安定零点 / マルチレートフィードフォワード / Preactuation |
研究実績の概要 |
精密位置決めステージには,「高速駆動」,「高精度駆動」,「ステージの大型化」,という相矛盾した要求がなされている。昨年は,センサ・アクチュエータの配置を最適化する機構と制御の統合設計法に取り組んだ。本年は,センサ・アクチュエータの配置を変更できず,連続時間不安定零点を持つ制御対象への軌道追従制御法に取り組んだ。 軌道追従制御をするためには,制御対象の逆系によるフィードフォワード制御が有効である。ところが,制御対象が1) 不安定な離散化零点,または2) 不安定な真性零点(連続時間不安定零点由来)を持つ非最小位相系の場合,原理的に完全追従制御はできないとされていた。ところがマルチレートフィードフォワード制御法により,1) の問題に対しては近似なしに安定逆系が設計できるようになった。ところが2) の問題については安定な近似逆系を用いた方法(例えば零位相誤差追従制御器: ZPETC)で対応せざるを得ず,原理的な制約条件だと思われていた。提案したPreactuation Perfect Tracking Control(PPTC)法では,「虚軸反転・時間軸反転による安定な状態変数軌道生成」により連続時間不安定零点に対する安定逆系を設計し,2) の問題を解決した。生成された状態変数軌道に対してはマルチレートフィードフォワード制御により1)の問題を解決した。本手法は,負時間からの制御入力の印加により,アンダーシュート・オーバーシュートなく完全追従を達成する。不安定零点の制約を超えた制御法といえる。実験では研究室の保有する精密位置決めステージを用い,8次のモデルを同定した。提案法により,実験的に従来法に比べ最大位置決め誤差97%減(34倍性能向上),95%減(22倍性能向上)を達成した。 さらに,短時間のPreactuationによって,正時間の完全追従制御を達成する手法を提案した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1) システム同定 研究室の保有する実験ステージに対して,Frequency Domain Identificationの手法を用い,single-input multi-outputの8次モデルを同定した。この詳細モデルは,フィードバック制御器設計や,研究である連続時間不安定零点を持つ制御対象へのフィードフォワード制御器設計に欠かせないものである。 2) Preactuation Perfect Tracking Control(PPTC)法の実験による検証 同定した8次モデルを用い,実験を行った。提案手法を,フィードバックのみ,nonminimum phase zeros ignore (NPZI)法,zero-phase-error tracking control (ZPETC)法,zero-magnitude-error tracking control (ZMETC)法,Continuous-time Preactuatred Model-Inverse (CPMI)法と5種類の方法と徹底的に比較し,有効性を示した。 3) 有限時間Preactuationによる正時間の完全追従制御法 PPTC法は,負時間の長時間に制御入力を印加する必要がある。そこで,冗長次数多項式軌道による最適有限Preactuation法により,負時間の位置決め誤差を低減しつつ,短時間のPreactuationで正時間の完全追従を達成する手法を提案した。この拡張は当初計画立案時にはなく,当初計画以上の進展といえる。
|
今後の研究の推進方策 |
1) 有限時間Preactuationによる正時間の完全追従制御法の実験的検証 2) 空気圧アクチュエータの遅延補償による圧力制御の高帯域化 3) 空気圧アクチュエータの波動方程式を用いたモデル化と共振相殺 半導体や液晶製造装置のステージはスループット向上のため大型化している。そのため,それを駆動するリニアモータも大型化・大質量化し,さらに発熱が問題となっている。そこで,リニアモータを軽量・安価・低発熱な空圧アクチュエータに置き換えることを検討する。しかし,空圧アクチュエータは遅延と位置依存の高次共振の問題がある。それを解決しないかぎり,高帯域な圧力FBは達成できず,高速高精度位置決めは不可能となる。また,音速の遅延は無視できず,非最小位相系である。
|