研究課題/領域番号 |
15J08491
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
増渕 岳也 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | DNA origami / T7 RNA Polymerase / Transcription |
研究実績の概要 |
本年度は去年度までに構築法が確立された分子デバイスの有用性拡張のため、外部環境変化による影響への耐性評価と、1分子活性解析を行った。 細胞内応用への障壁の一つに、試験管内と細胞内とでは大きく環境が異なること、すなわち塩濃度やクラウディング状態などのパラメータが異なることが考えられる。試験管内でこれら条件を再現し、分子デバイスの活性測定を通じ、現状の分子デバイスの細胞内応用性の可能性を評価した。塩としてはDNA構造体やT7 RNA Polymeraseの活性に大きく影響を与えることが知られているKCl、MgCl2を、クラウディング剤としてはFicollを用いた。結果として、分子デバイスは、分子デバイスに含まれない各因子と比較して高塩濃度、高クラウディング条件下においても高い活性を保つことが示された。 また、細胞内など導入可能な分子数が限られる空間での利用には、1分子レベルで活性を保つことを担保する必要があるため、分子デバイスを微細空間中に封入し、活性を測定した。具体的には、直径20umのエマルジョン中 (約0.4 pL)に低濃度 (約1 pM)の分子デバイスを封入し、それぞれのエマルジョンにおける遺伝子発現量を測定した。エマルジョン内分子平均数が1付近となる濃度 (0.4 pM)においては遺伝子発現量の量子化が観察され、分子デバイスは1分子レベルでも活性を保っていることが示された。さらに直行性や、局所濃度上昇による活性向上もエマルジョン中で確認され、分子デバイスはエマルジョン内環境中においてもその特徴を保持していることが示された。 以上の結果より、分子デバイスは細胞内環境への応用に有利な特性を持つことが示された。今後は、これら特性を活かしつつ活性調節機能や分解耐性機能を搭載した分子デバイスの構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は予定していたナノ反応場に関する基盤研究のうち、外部環境に対する応答性と1分子レベルでの振る舞いについて焦点を当てた。外部環境の影響は分子デバイスを細胞内などの環境への適応に、1分子レベルでの活性評価は分子デバイスの機能拡張性を担保する上で大きな意味を持つ。 結果として、分子デバイス上に集積された分子群は外部環境の変化耐性を有し、細胞内においても比較的安定した活性を保つことが示された。また1分子レベルに於いても分子デバイスの転写活性そのものや、生化学の実験で明らかとなっていた直行性、実効濃度の大幅な上昇などといった特徴が担保されることが明らかとなり、細胞内など導入可能な総分子数が限られている系や複数種のデバイスを共同的にはたらかせる系に応用する際の知見が得られた。上述の結果より、本研究は予定通り進捗していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は1.活性制御機構の実装、2.分解耐性の実装、3.分子デバイスの細胞内への応用を主軸に据えて研究を進める。 1.活性制御機構としては、デバイス上の分子間衝突頻度を制御する系を試す。具体的にはデバイス上分子とDNA origamiとを繋ぐ1本鎖DNAからなるリンカーの配列を、プローブとする1本鎖DNAやRNAに相補的な配列や, 低分子化合物に対するアプタマー配列とし、これら分子依存的にデバイス上分子の自由度が変わる系の構築を目指す。 2.人工核酸を分子デバイス内に導入することで、分解耐性向上を目指す。具体的には、特に分解を受けやすいと考えられる分子デバイス上の目的遺伝子の末端にSNAを導入し、そのDNase耐性と転写活性を評価する。 3.細胞内への応用の系においては細胞抽出液系、およびその細胞内での応用を目指す。
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