昨年度に引き続き、『古今和歌六帖』を中心として、十世紀後半の和歌文学作品について研究を行った。特に、『古今和歌六帖』編者が、『万葉集』や『古今集』といった先行の歌集を、どのように享受・摂取したのかという問題に考察を加えた。 今年度に発表した論文「古今和歌六帖の万葉歌と天暦古点」では、『古今和歌六帖』所載の万葉歌について、『万葉集』の巻ごとの採歌歌率に偏りがあることを指摘し、『古今和歌六帖』編者が、『万葉集』二十巻のうち、そのすべてを目にできたわけではなかった可能性があることを考察した。そのうえで本論文では、『古今和歌六帖』の万葉歌のうち、『万葉集』巻四を出典とするとみられるものに焦点を絞り、その本文・訓に検討を加え、それらの万葉歌の中に、『万葉集』の古点の特徴的な訓と一致するものが少なくないこと、また一方で、その本文には、『古今和歌六帖』独自の平安和歌的な変容が生じてもいることを指摘した。以上の検討内容をふまえ、『古今和歌六帖』編者が参照した『万葉集』巻四が、仮名に訓み下された、いわゆる「仮名万葉」のようなものだった可能性を指摘し、同時に、『古今和歌六帖』が、『万葉集』の古訓のありようや、平安朝における『万葉集』享受の具体相を知る資料としての意義をもつことを考察した。 また、上記論文の執筆後は、昨年度に行った学会発表「古今和歌六帖の題と配列について――第五帖「雑思」項を中心に――」の内容に基づき新たに論文を執筆しており、近日中に学会誌に投稿する予定である。当該論文では、『古今和歌六帖』第五帖「雑思」の項目の立て方とその配列の方法について、各項目の所載歌の表現内容も含めて詳細な検討を加えた。そのうえで、『古今和歌六帖』の項目の配列が、『古今集』などの先行する歌集の配列構造に学びつつも、項目同士の関係性を重視するという独自の構成を有してることを指摘した。
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