本年度は主に2つのプロジェクトに関する研究を行った。 一つ目はPseudomonas属細菌の比較ゲノム解析であり、前年度までに作成していたゲノムデータベースを用いて詳細な比較解析を行った。具体的には、全ゲノム情報を用いた系統解析と、外洋域分離株の遺伝子レベルでの特徴の統計的検出が挙げられる。結果として、外洋域分離株のP. aeruginosaは系統的には独自のクレードを形成しており、他の研究チームの先行研究においてインド洋より分離された株とも系統的に近いグループであることが分かった。このことはP. aeruginosa外洋域分離株は外洋環境において適応したグループであることを示唆する結果だが、遺伝子組成レベルでの解析の結果、P. aeruginosa外洋域分離株のゲノムはほぼ他の環境から分離されたP. aeruginosaと同様の遺伝子組成を有しており、海洋環境適応に特徴的な遺伝子の発見には至らなかった。 二つ目はFlavobacteriiaの海洋環境適応機構に関する論文作成であり、ロドプシンを用いた光エネルギー利用と細胞外色素を用いたUV防御の間のトレードオフ関係を論じるものである。本年度は本論文の執筆とそれに伴う再解析を行った。具体的には、細胞外色素合成系に関する詳細な解析と解析結果の可視化や、TARA Oceansデータベースを用いたロドプシンの全球的な分布の解析などがある。また、遺伝子のクラスタリングに関してはin-houseのスクリプトを用いるよりeggNOG-mapperソフトウェアを用いたクラスタリング手法に変更した方が精度の改善が見込めると判断したため主要な統計解析に関しては全てやり直した。また、これらの結果をまとめた論文をThe ISME Journalに投稿し、受理された。
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