研究実績の概要 |
本研究では、電子物性と動的プロトン物性が協奏した機能性物質の開拓を目的として、TTF(テトラチアフルバレン)にカテコールが直接縮環したCat-TTF誘導体を基盤とした有機伝導体の合成と物性測定を行った。研究は、動的な水素結合の挙動を介して相転移挙動を示す有機物質 [H3(Cat-EDO-TTF)2]BF4 に関する研究と水素結合鎖-電子連動型の機能性物質の開発研究を並行して行った。 (1) [H3(Cat-EDO-TTF)2]BF4 の動的な水素結合の挙動と相転移の関係を調査することを目的として、水素結合部の重水素化を行った。その結果、転移温度の上昇と活性化エネルギーの低下が観測され、水素結合部と電子系が相関していることが示唆された。さらに、アニオン置換体として新規有機伝導体 [H3(Cat-EDO-TTF)2]X (X = ClO4, PF6, AsF6) の開発に成功し、物性測定を行った。その結果、水素結合の動的性質が結晶中の化学圧力効果と関連していることが示唆された。 (2) 水素結合鎖の動的挙動と電子系が連動した電子物性の開拓を行うために、多方向に水素結合を形成可能な電子ドナー分子として、TTFの両端にカテコールを縮環させたドナー分子を設計し、合成に成功した。このドナー分子を用いて伝導体の作製を行ったところ、3種類の電荷移動塩 ( ClO4塩, ReO4塩, CF3SO3塩) 及びアニオンを含まない純有機伝導体を新規に合成することに成功した。X線構造解析から、これらの伝導体結晶中では、水素結合によってドナー分子が繋がれたネットワーク構造を形成していた。つまり、新規のドナー分子が「水素結合鎖-電子連動型」の新奇物性を構築する重要な物質であるということが明らかとなった。
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