研究課題/領域番号 |
15J08533
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
澤井 真 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | スーフィズム / イスラーム神秘主義 / イブン・アラビー / 存在一性論 / 聖者 |
研究実績の概要 |
平成27年度における主な研究成果は、国内外における諸学会での研究発表を通して行なわれた。「『イスラーム神秘主義』概念の成立過程」においては、現在のイスラーム神秘思想研究において用いられている「イスラーム神秘主義」という枠組みが、イスラーム教の内部と外部のあいだでいかに構成されてきたのかを、ラテン語、ドイツ語、フランス語などの欧米諸言語の文献から考察した。「イスラームにおける聖者―イブン・アラビーの完全人間論から―」では、他のパネリストたちとともに聖者という視点から発表を行なった。同研究発表では、イスラーム神秘思想家として知られているイブン・アラビーの聖者観を、完全人間という視点から考察した。 ドイツで行なわれた“The Meaning of Adam in Ibn 'Arabi's Theory of the Oneness of Existence”では、イブン・アラビーの思想である存在一性論の議論を、最初に創造された人間であるアダムを通して考察を行なった。ユダヤ教やキリスト教と同様に、イスラーム教においても、アダムは「神の似姿」を通して創造されたと理解されている。本発表では、イブン・アラビーはこの神の似姿をもつアダムの創造を通して、人間が神的諸要素に密接に関わっていることに注目したことを指摘するとともに、アダムがその他の預言者たちを論じるうえで、比較対象として用いられてきたことを明らかにした。「存在一性論における神名―イブン・アラビーとカーシャーニーの議論を中心に」では、神名が存在流出というかたちで顕れることを、カーシャーニーの議論を通して枠づけながら考察した。 また平成28年1月より、米国のイェール大学に客員研究員として滞在しながら調査することで、さらなる研究の展開を図っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者の研究における主な分析対象であるアラビア語文献については、世界有数の蔵書量を誇る米国のイェール大学に滞在することで(平成28年6月まで)、国内で生じる資料の閲覧の限界という問題を克服するとともに、現地での調査研究を通して最新の研究成果を取り込むことが可能となっている。また、日本では入手が困難な欧米言語の諸文献へのアクセスが容易となっており、欧米を中心とした言説研究を行なっている。 イスラーム思想研究は、文献の精読と分析に時間を要するのに加えて、先行研究を読み解く作業が求められる。論文の作成は、前年度で行なった研究発表を議論の骨子としながら論文を提出しているところである。そのため、研究の進捗状況に遅れはないが、複数の論文の出版が平成28年度に持ち越される予定である。 また、研究課題の項目の一つである聖者論に関する研究としては、昨年度より聖者研究会を立ち上げ、日本宗教学会でのパネルを皮切りに共同研究を行なっている。研究の打ち合わせについても、平成27年12月28日に申請者の受入機関である東京大学東洋文化研究所において行なうことによって28年度に開催予定のシンポジウムや研究会の予定を確認した。 1年目に滞在予定であったハーバード大学については受入れが正式に決定している(平成28年4月6日時点)。調査研究のための滞在先については、イェール大学ではゲアハルト・ベーヴェリング教授(宗教学専攻)が受入れ研究者となっている。イスラーム神秘思想研究の世界的権威であり、日本のイスラーム研究者のあいだでも最もよく知られた研究者の一人である。これまでイスラーム研究を牽引してきた同教授との研究相談を重ねることで、世界レベルでイスラーム研究を行なううえで不可欠となる様々なアドバイスを得ることができている。こうした研究成果を論文のなかに取り込むかたちで研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年10月以降、トルコやヨーロッパで頻繁に起きているテロに加えて、エジプトをはじめとする中東地域における治安が不安定となっており、調査研究が困難な状況となっている。今後予定しているトルコでの写本調査については、現地への渡航時期を可能な限り検討するが、英国や米国の各大学に所蔵されているアラビア語写本を用いる予定である。 また聖者研究会のシンポジウムについては、29年2月から3月に東京近郊の大学で開催するとともに、研究会については平成28年度6月から7月に北海道大学で行なうことを検討している。平成28年度の研究成果については、諸学会での口頭発表ではなく、学術誌での論文発表に力を入れる予定でいる。こうした予定の背景には次の二点が挙げられる。第一に、平成28年9月から平成29年1月まで、ハーバード大学世界宗教研究所(The Center for the Study of World Religions)での在外研究を予定していること、そして第二に聖者研究会が主催するシンポジウムでの研究発表を予定していることである。 ハーバード大学での在外研究においては、比較神学の研究者であるフランシス・X・クルーニー教授(世界宗教研究所長)が受入れ研究者となっている。同研究所では、さまざまな領域で宗教研究を行なう研究者たちがおり、申請者のイスラーム思想研究を、比較宗教学、比較神学、そして間宗教研究などのより大きな枠組みのなかに位置づけることを試みる。そのうえで、『宗教研究』に「イスラーム神秘主義」概念の成立に関する論文を、『イスラム世界』にクシャイリーの神名論に関する論文を、そしてOrientにジュナイドの「原初の契約」に関する英語論文を投稿し、平成28年度中の出版を目指す。また、Harvard Theological Review上に平成29年度中の論文掲載を目標に研究を行なう。
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