研究実績の概要 |
平成29年度において、申請者は自らの研究課題に基づいて、国内外で調査研究を行い、研究業績を論文や口頭発表で行った。 まず、論文 “Ibn Arabi on the Perfect Man (al-insan al-kamil) as Spiritual Authority: Caliph, Imam, and Saint”では、イブン・アラビーの権威性の問題を完全人間論の立場から明らかにした。さらに、論文 “Re-experiencing the Myth of Adam: The Primordial Covenant on Junayd’s Idea of Fana' and Baqa'”では、ジュナイドが、「ファナー」(消滅)と「バカー」(存続)という鍵概念を通して論じられた神的一体性の議論について明らかにした。 研究発表に関しては、ムハンマド・アブドゥフのスーフィー観を取り上げ、近代エジプトの知を再編成する過程のなかで、彼が神秘思想をいかに眼差していたのかを捉えた。そこでは、彼が神秘思想それ自体を否定したのではなく、粗野で理性にそぐわないと彼がみなしたスーフィーたちの振る舞いを改革することを試みていたことが明らかになった。 エジプトでの写本収集においては、国立エジプト図書館とアズハル大学図書館を中心に調査を行った。調査においては、イブン・アラビー学派の思想家の一人であるダーウード・カイサリーのアラビア語写本を閲覧・複写するとともに、彼が論じた神と人間の関係性についての分析した。 申請者の研究成果の大半は、英語によって広く世界に向けて問う意図でなされたものである。研究成果の発表を通して、海外の研究者との情報交換とともに、研究の継続と着実な進展を企図した将来的な共同研究に関する研究打ち合わせもまた行った。
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