研究課題/領域番号 |
15J08580
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久米 健大 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 電鋳法 / X線ミラー / 高精度形状転写 / ナノ精度形状計測 |
研究実績の概要 |
電鋳プロセスにおいては,電析条件により内部応力の大小や分布が決定される.これらは転写精度に影響を及ぼすため,精度向上を図る際には転写精度の評価結果に基づいて電析条件改善がなされる.電鋳法によるナノ精度形状転写の実現を目指した本研究においては,ナノ精度で転写面形状を評価することが不可欠である.これまで回転体形状サンプルの周方向形状評価の際には真円度測定器を用いてきたが,転写面長手方向の形状評価手法は確立されていなかった.前年度の研究成果により,回転楕円ミラーのような軸対称中空形状サンプルの作製において,内部応力の大小が周方向における形状転写性能に及ぼす影響は限定的であることが示されたが,対称性を有さない長手方向においてはその影響が顕著であると予想される.長手方向形状転写精度と内部応力の関係を調査するため,電析膜厚分布の解析および回転体ミラーのための長手方向形状計測システムの開発に取り組んだ.前者では回転体ミラー電析時の電場分布を有限要素法により求めることで,電析膜厚分布を推定した.後者では,1 nmレベルの分解能を有する分光干渉レーザー変位計と1 nmレベルの平坦面を有する複数の参照平面を用いたマンドレル形状計測システムを,回転楕円ミラー内面形状計測に適用すべく装置改良を試み,ミラー長手プロファイルの長空間波長成分についてsub-100 nmレベルの精度で形状評価が可能であることを実験的に示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は,金属電析プロセスにおける応力のin-situ制御による精密形状転写の実現を計画していたが,前年度の研究成果により,回転楕円ミラーのような軸対称中空形状サンプルの作製において,内部応力の大小が周方向における形状転写性能に及ぼす影響は限定的であることが示された.そのためプロセス改善に向けた形状転写性能評価のためにはin-situ応力制御システムの開発に先立ち,サンプル長手方向の形状評価システムを確立することがより重要となった.これまで転写面長手方向の形状評価は十分な精度で行われていなかった.本年度の研究成果により,5 mm以上の空間波長成分においてsub-100 nmレベルの精度でミラー形状評価が可能であることが実験的に示された.現時点で測定精度は満足いくものではないが,計測用プローブの詳細な特性調査等を通じて測定精度向上が十分に可能であると考えている.また本計測システムは真円度測定器に組み込まれたものであるため,サンプルの再アライメントを必要とせず同一機上で長手方向・周方向ともに高精度な形状計測が構造上可能である.今後,長手方向計測精度が改善されることで,回転体ミラーの3次元的な形状評価も可能となる.本年度の研究成果は電鋳プロセスにおける最終的な形状転写性能評価に不可欠な,3次元的な形状評価システム実現にただちにつながるという点で,研究がおおむね順調に進展したといえる.
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今後の研究の推進方策 |
29年度は,ミラー長手形状計測システムの計測精度を早期に向上させる.具体的には計測用プローブの詳細な特性調査に基づいたキャリブレーション等を行う.また28年度は回転体ミラー電析時の電場分布を有限要素法により求めて電析膜厚分布を推定したが,29年度はシミュレーション結果をもとに,回転体ミラーの電析金属層の厚さ分布の制御を試みる.続けて,実際に任意の膜厚分布条件・応力条件のもと複数の回転体ミラーサンプルを作製し,それらの長手形状を計測することで,電析条件と長手方向における形状転写性能の関係を明らかにする.さらに,最適化された条件のもと回転楕円ミラーを作製し,3次元的な形状評価を行う.その際,他手法によるミラー3次元形状計測も実施し,計測結果同士を比較することで本計測システム自体の性能も評価する.最終的にはX線を用いて回転楕円ミラーの光学特性を評価し,高精度X線光学素子作製手法としての電鋳プロセスの性能に結論を付ける.
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