前年度まで,室温電析を特徴とした電鋳法による高精度形状転写プロセスの開発に取り組んできた.一方で転写性能評価は転写形状と被転写形状の比較によりなされるが,小径円筒状のミラー内面の形状を高精度に計測することは困難であり,これまで転写性能評価は真円度測定器を用いた周方向プロファイルの計測・比較のみにとどまっていた.そこで複数のレーザープローブと参照平面を用いた同時比較計測を特徴とした,マンドレル外周のための三次元形状計測装置を改造し,ミラー内面形状計測システムを開発した.ここでは,ミラー内面上での走査が可能である接触式プローブも併用した装置構成とした.接触式プローブによる摩擦や測定力の影響を補正・最小化することで,10 nmの置き直し再現性の下,ミラーの長手方向プロファイルの計測が可能となった.複数の長手方向プロファイルと周方向プロファイルを組み合わせてミラー形状誤差の三次元的な分布を求め,マスター形状誤差と比較した結果,上下流端近傍を除いた中心付近においてRMS 15 nmの精度で形状転写がなされていることが確認された.数十ミリメートルスケールの範囲でこのような転写精度が達成された例は報告されていない.ミラー形状誤差に基づき,波動光学シミュレーションにより集光特性を求めたところ,波長4.13 nmの軟X線を光源に用いた場合,ビーム中心から半径250 nmの範囲内にエネルギーの50%以上が含まれることが示された.これは同ミラーを用いて大型放射光施設で実施された実際の集光実験結果とよく一致している. このように高精度ミラーの作製・形状評価により,高精度X線光学素子作製手法としての提案プロセスの有用性を示した.
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