薄膜シリコン(Si)太陽電池は少ないSi資源量で発電可能だが、膜厚が数百nmから数μmと薄く、光吸収が弱いことが課題である。そこで本研究ではフォトニック結晶(PC)と呼ばれる、光の波長程度の周期的屈折率分布をもつナノ構造体を用いた。PCの共振モードを多数用意し、それらに入射光を結合させることにより広帯域に亘る光吸収増大が期待される。そこでPCを用いて薄膜Si太陽電池(特に薄膜微結晶Si)の光吸収増大を図るべく、そのPCの構造設計手法の確立を検討した。これまで、PCの微小構造変化に対するSiの光吸収変化が計算でき、細かな構造設計が可能であるという特徴をもつ感度解析法を用いた構造設計を行ってきたが、従来では太陽電池の構成要素である電極の光吸収を無視していた。そこで、電極の光吸収を考慮に入れた上でPCの構造設計を検討した。電極の光吸収を取り込むにあたり、電極の吸収係数を設計に導入した。感度解析法では、目的関数と設計変数の設定が重要である。目的関数はSiの光吸収であり、Siにのみ吸収される電磁エネルギーで表現した。設計変数については、PCの面内の誘電率をその設計変数を使って表現することにより導入した。そして、感度、すなわち目的関数を設計変数で偏微分したものを計算することにより構造設計を行った。Si膜厚600nmの太陽電池において、設計対象のPCに対して感度を計算し、その計算結果を受けて構造設計を行うことを繰り返した結果、PCを有さない太陽電池と比較して、約1.4倍の光吸収増大を実現することに成功した。また、この光吸収は、光吸収のベンチマークである、Si層内への光の等方的な散乱を実現するような理想的なテクスチャ構造採用時の光吸収をも上回ることを示した。本研究で検討した手法により、より大きな光吸収を実現する薄膜微結晶Si太陽電池の実現可能性が示されたといえる。
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