研究課題/領域番号 |
15J08610
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
遠藤 悠 東京農工大学, 大学院生物システム応用科学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | Bacillus thuringiensis / Cry toxin / ABCトランスポーター |
研究実績の概要 |
本研究は、殺虫タンパク質(Cry毒素)と昆虫が持つ受容体分子との特異的な相互作用に着目し、その結合性を人為的に改変することで、高い殺虫活性や広い殺虫範囲を付与した新規殺虫タンパク質の創出を最終的な目的としている。1年目の本年度は、チョウ目昆虫の持つCry毒素の受容体として最も重要であることが分かりつつあるABCトランスポーターC2(ABCC2)について、さまざまな昆虫種を用いてその重要性を追証する計画であった。しかし新たに受容体候補となったABCC2以外のABCトランスポーターについて、その分子がCry毒素の毒性にどれだけ重要な分子であるか検証する必要が生じた。そこで当初の計画を変更し、主にカイコガとコクヌストモドキを材料に新規受容体候補分子の評価を行った。
1)カイコガ由来のABCC3とよばれるABCC2に近縁なABCトランスポーターを培養細胞に発現させたところ、ABCC3は一部のCry1A毒素に対して受容体として機能したが、受容体として機能するCry1A毒素の範囲や受容体機能の強弱はABCC2とは異なることが示唆された。ABCC3とCry1A毒素の結合解析を行ったところ、受容体として機能する毒素に対しては高い親和性で結合した一方で、機能しない毒素にはほとんど結合しなかった。
2) チョウ目昆虫以外の昆虫はABCC2やABCC3をそもそも持たないため、タンパク質工学の標的となる分子を見出す必要があった。そこで、さまざまな昆虫においてABCC2に最も近縁なABCトランスポーターがCry毒素受容体として機能するか評価した。その結果、コクヌストモドキのABCトランスポーターの一つが、コウチュウ目昆虫特異的なCry毒素の受容体であることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンパク質工学の基盤となる技術や材料は徐々にではあるが整いつつある。最も重要なことは「標的にふさわしい受容体分子の決定」であるが、計画を変更した結果、タンパク質工学の新たなターゲットとして魅力的なCry毒素受容体を2つ見出すことができたため、かえって意義のある成果が出たといえる。特にコウチュウ目昆虫における機能的なCry毒素受容体の同定は初めてのことである。
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今後の研究の推進方策 |
ABCC2とABCC3は極めて近縁な分子であり、昆虫種によってABCC2とABCC3のCry毒素受容体としての機能の強弱はさまざまであることが予想される。そこで当初の予定にABCC3も加え、昆虫ごとにどちらの分子がタンパク質工学の標的としてふさわしいか検証する。一方、コクヌストモドキのCry毒素感受性は非常に弱く、それを裏付けるように同定した新規受容体の受容体機能も低かった。この低い受容体機能がCry毒素との結合性の低さに起因するのであれば、タンパク質工学によって結合性を改変することで、強力なCry毒素を創出可能であると考えられる。この昆虫とCry毒素の関係は、タンパク質工学の格好のモデルになると考えられ、結合解析をはじめとした検証を行う。
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