研究課題/領域番号 |
15J08622
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本山 央人 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | X線 / 高次高調波 / 高精度ミラー / EUV |
研究実績の概要 |
本研究計画の目的は、従来型のX線/EUV集光ミラーの性能を上回る、回転楕円型集光ミラーの高精度作製プロセス、回転楕円ミラーを利用した集光システムの構築である。本研究の推進には、X線/EUV光源の存在が不可欠である。光源を利用した集光性能評価の結果を、ミラー製造プロセスにフィードバックし、ミラーの高精度化と集光システムの高度化を相補的に推進することができる。 2016年度は、東京大学浅野キャンパスにある実験室において、EUV光源の構築を行った。研究グループ内で複数人が実験を行うことを想定し、簡便性・安定性に優れた 光源をコンセプトとして研究開発を行った。EUV発生方法には高次高調波発生を利用している。高強度フェムト秒レーザーを希ガス雰囲気に集光することでレーザーの非線形効果を誘起し、その結果として基本波の波長の気数倍の周波数をもつ高調波が同軸上に発生する。本研究では、中心波長800nm、パルス幅40fsのレーザーをヘリウムに集光することで、波長10~20 nmのEUV領域の光を発生させている。 開発したEUV光源は、すでに回転楕円ミラーの性能評価のために利用できる段階にある。集光システムには、1kHzの周波数で発生するEUVの強度をシングルショット毎に計測できる検出器を組み込んだ。先行研究からミラーの姿勢制御には、高い分解能と再現性が必要であることが示されているため、本システムではパルス駆動の5軸ステージを採用している。年度末に集光実験を実施し、350×370nmの集光サイズを実現した。この値は、EUV領域におけるブロードバンド光源の集光サイズとしては非常に小さいもので、EUV集光における回転楕円ミラー利用の有効性を示す結果となった。 次年度は、引き続き集光システムの高度化を行うとともに、集光ビームを利用したガスの光電子分光など、応用実験への展開を見据えた準備を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の推進にあたり、最も重要なEUV光源の開発において大きな進展があった。2015年度までに導入されていたシステムは安定性に著しい問題があり長期間の実験は困難であった。今年度は発生方式から見直し、使いやすく安定的な光源を構築した。強度変動は標準偏差で5.6%程度であり、実験の実施に全く問題ないレベルで安定している。今年度の研究開発により、今後の研究を加速させる下準備を終えることができた。 また、当初は乾燥細胞の走査型透過顕微鏡の構築を最終目標としていたが、より学術的な価値の高い、原子・分子のEUV照射下における振る舞いの観測を現在の目標としている。具体的には、光電子分光装置を構築する。高次高調波発生で得られるEUVは発光時間が1fs以下と極めて短く、1fs以下の時間スケールで起きる原子・分子中の電子の振る舞いを観測するのに適した光である。2016年度末から光電子分光装置の設計を開始し、必要な装置・部品類の準備を行った。2017年度の夏までに光電子分光装置の立ち上げを行う予定である。 また、ミラーの高精度化に関しても進展があった。回転楕円ミラーによるさらなる微小集光のためにはミラーの高精度化が必須であるが、現在の技術ではミラー内面を形状修正する手段はない。2015年度に成膜技術を応用した新規形状修正手法のデモを行い、2016年度には形状修正にさらに特化させた新規装置を構築した。本装置に関しても、2017年度前半にはシステムの立ち上げと形状修正実験を行う予定である。 以上のように、昨年度は、本研究における、光源開発および形状修正装置の構築という進展があった。光源に関してはシステムの立ち上げが終了し実験にEUVを供している段階である。2017年度は、より発展的な課題として光電子分光装置の立ち上げを、ミラーの高精度化を目的として形状修正装置の立ち上げを、それぞれ行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、回転楕円ミラーによる集光EUVビームを用いた応用実験のフェーズへと移行する。2つのプランを同時並行で進めている。 1つ目は、これまで構築してきた高次高調波EUVビームラインにおける光電子分光である。高次高調波の特徴である、離散的かつブロードバンドな波長スペクトル構造を持つ光を原子に照射すると、電子遷移の始状態と終状態だけではなく、中間の状態をプローブ可能であることが実験で示されている。高次高調波の原子・分子科学の相性は非常に良い。本研究では、時間分割したダブルパルスを、遅延時間量を変化させながら原子に照射し、得られた光電子スペクトルを解析することで、原子内で起こる超高速現象の解明を試みる。 2つめは、X線自由電子レーザー施設SACLAにおける集光装置の構築と非線形EUV光学実験の実施である。昨年度、SACLA大学院生支援プログラムに採択され、EUV自由電子レーザー用集光システムをSACLAの研究グループと共同で開発してきた。2017年度前期に集光装置の立ち上げと集光実験を行う。SACLAで発振されるEUVパルスは、高次高調波EUVパルスと比較して高強度である。さらに、超高強度EUVパルスを回転楕円ミラーで極微小領域に集光すると、クーロン電場よりもはるかに強い光電場を生成することができる。このような極限状態化では、物質の状態は非線形的に変化することが知られている。代表的な事例は、金属のEUV過飽和吸収である。高強度EUVパルスが金属薄膜に照射されると、瞬間的に全ての電子が遷移し、EUVに対して透明となる。高次高調波とは違った特徴をもつEUV光源を利用することで、非線形EUV光学現象の実験的研究に取り組む。 以上のように、回転楕円ミラーを、高次高調波・自由電子レーザーといったそれぞれ異なる特徴をもつ光源と組み合わせで使用することで、応用実験を推進する予定である。
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