研究課題
{Fe(pz)[Pt(CN)4]} (pz=pyrazine: 1)を用いて室温での気体分子に対する応答性を評価したところ、一酸化窒素 (NO) のみが吸着挙動を示し、赤紫色を示す低スピン状態 (LS) から黄色を示す高スピン状態 (HS) への変化が観測され、ガス分子によるスピン状態の変換に成功した。この結果を詳細に検討するためにNO の細孔内挙動に伴う構造と磁性の変化の相関を、放射光を用いた in situ NO 雰囲気下 X線回折測定およびIR測定により評価した。化合物 1 は、121 K においてユニットあたり2.5 分子、298 K では 0.6 分子のNOを吸着した。298 K のNO の吸脱着曲線はヒステリシスを示し、骨格と NO 間の強い相互作用が示唆された。298 K において LS の 1 に NO を導入しながら in situ 磁化測定を行うと、速やかに HS へ変わることが確認された。NO 吸着体 (1⊃NO) の磁化率の温度依存性は、1 のゲストフリー体の挙動とは大きく異なり、200 K と 150 K 付近で二段階のスピン転移を示した(Fig. 2(b))。1⊃NO の粉末 X 線回折パターンの温度変化からは磁気挙動に対応した二段階のピークシフトが確認された。これは磁気挙動が骨格構造の変化に伴い変化していることを示している。さらに、温度の低下とともに (NO)2 由来の強いバンドが現れ、細孔内ではNOはdimerを形成していることが明らかとなった。以上、NO 吸着によるスピン状態の変換に成功し、NO の細孔内挙動の構造および磁性への影響を高輝度放光を用いた NO 雰囲気下の粉末 X 線回折および IR 測定から明らかにした。この研究はガス分子の骨格物性への影響が顕著に現れた例であり、今後のガス分子に応答する化合物の設計・作製に波及するだろう。
2: おおむね順調に進展している
現在までに温度可変 in situ ガス吸着-ラマンスペクトル同時測定系を新たに立ち上げ、多孔性配位高分子に吸着させた一酸化窒素および水素の挙動について詳細に調べた。さらに、ガス雰囲気下において、磁化、IR スペクトルおよび Spring-8 における粉末X線回折の温度可変 in situ 測定から、構造変化、ゲスト分子の挙動および骨格構造の磁化率の変化の相関を検討した。一酸化窒素の系では温度変化に伴う細孔内における一酸化窒素の可逆的な二量化、水素の系では細孔内における速やかな核スピン変化、が起こることを見出した。他にも、電導性多孔性配位高分子の合成とゲスト分子による伝導性の制御にも成功した。9月に研究室が移転したため、装置や実験室の解体と立ち上げにより2ヶ月以上通常通りの研究を行えなかったにも関わらず、期待通りの成果を挙げることができた。装置の再調整と実験を優先したため、学位取得を遅らせることにしたが、次年度に速やかに博士論文を提出できる見込みである。
今後は本年度の結果を踏まえ多孔性配位高分子に吸着させた一酸化窒素および水素の挙動についてより精密に解析を行う。Spring-8 における粉末X線回折の温度可変 in situ 測定の結果から細孔内における気体分子の状態の構造解析を推進する。他にも、電導性多孔性配位高分子の合成とゲスト分子による伝導性の制御と高機能化についても推進する。
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