研究課題
本研究員は、今年度、軌道 (四極子) 秩序を示すPrV2Al20、価数揺らぎを示す重い電子系alpha-YbAlB4に対して、新たな量子相転移を発見するため、磁場中での抵抗(磁気抵抗効果)を調べた。これらの物質はいずれも磁場と強く結び付く磁気モーメントを持たないため、磁場で相転移を誘起するためには非常に高い磁場が必要である。そこで、本研究員は最高で45 T (Tesla) の定常磁場を印加することができる、米国国立高磁場研究所(National High Magnetic Field Lab.)に向かい実験を行った。単結晶試料の合成やその評価は日本の物性研究所の所属研究室で行った。まず、0.6 K以下で四極子秩序を示す立方晶PrV2Al20に関して、その磁気相図が異方的である可能性が指摘されていたが、その全容は明らかにされていなかった。そこで、立方晶の主軸三方向 ([100], [110], [111]) に平行な磁場中での磁気抵抗測定を行い、磁気相図を完成させた。その磁気相図は磁場に対して非常に異方的で、その臨界磁場が25 T ([100]) > 16 T ([110]) > 11 T ([111]) であることを明らかにした。一方、alpha-YbAlB4に関しては、磁気抵抗において、比較的小さな周波数 (F = 10 T) の量子振動 (シュブニコフドハース振動) を示すことが知られていた。高磁場での磁気抵抗測定の結果、この量子振動が、約 10 T - 15 Tの高磁場において、連続的に消失することを明らかにした。これはランダウ準位の分裂によるフェルミ面の消失(量子極限の発現)を示す。これは重い電子系化合物では初めての発見であると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究員は非磁性の磁場誘起の量子相転移を示す、alpha-YbAlB4とPrV2Al20に対して、超高磁場での磁気抵抗測定を行った。本研究はもともと、次年度に行うことを計画していたが、試料の準備が順調に行ったために今年度に行うことが出来た。具体的に得られた実験結果に関しても順調で、PrV2Al20に関しては主軸三方向([100], [110], [111])すべての磁気抵抗測定を行うことが出来たため、四極子相図の完成に至った。またalpha-YbAlB4に関しても、予期していなかった10 T近傍での量子極限を見出したことから、こちらに関しても予想以上に順調である。
今後、まずはalpha-YbAlB4において観測されている3.5 T付近の非磁性の量子相転移および、前年度の研究で見出した10 T以上の量子極限による量子臨界性の熱力学的検証のために、ドイツのアウグスブルグ大学に向かい、そこで世界で初めて開発された精密磁気熱量効果測定を行う。PrV2Al20に関しても、量子臨界的なふるまいを示す[111]の磁場方向に対して、最大 16 Tでの磁気熱量効果測定を行う。日本に帰国後はalpha-YbAlB4に対して希釈冷凍機温度での圧力実験を行う。予備的な実験から伝導電子の有効質量が圧力により小さくなっているふるまいを見出した。これは従来のYb系の重い電子系のふるまいとは真逆であり、驚くべき結果である。ゆえに詳細な実験が必要である。
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