研究課題/領域番号 |
15J08690
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
坂下 陽彦 東京農業大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 生殖細胞の性分化 / 卵子・卵胞形成 / Sry-targeting knockout / RNA-seq / ヒトの性分化疾患 / 細胞周期・減数分裂移行 / レトロトランスポゾン |
研究実績の概要 |
はじめに、生殖細胞の性分化がどの時期から生じているか明らかにするため、E13.5 雌雄始原生殖細胞(PGCs)のRNA-seqによる網羅的転写産物解析を行った。その結果、雌雄PGCそれぞれにおいて多様な性特異的発現遺伝子が検出され、この時期にはすでに明確な性特異的な分化が生じていることが明らかになった。本研究では、性転換マウス生殖細胞の性分化および卵子形成過程においてどのような異常が生じているかを明らかにするため、このデータを以降の実験のコントロールとした。 CRISPR/Cas9システムによるジーンターゲティング法の導入により、世界初の近交系における性転換マウスの人為的な作出に成功した。驚くべきことに、これらのマウスの貯蔵卵子は、思春を迎える前に大部分が退行していた。この表現型は自然発症的な性転換マウスでは報告されておらず、また、ターナー症候群やスワイヤー症候群などの性分化疾患の病態と酷似している。次に我々は、性転換マウスの卵子形成過程における異常が不妊の原因であると仮定し、卵子形成過程にどのような悪影響が生じているか明らかにするため、胎仔期および新生仔のXYsry-雌性生殖細胞のRNA-seqを行った。各時期の発現変動遺伝子を抽出した結果、発現上昇遺伝子群にWntシグナルおよびアポトーシス関連遺伝子群が、発現低下遺伝子群に細胞周期および減数分裂関連遺伝子群が有意に濃縮されていることが明らかになった。従って、これらの転写産物群の変動が、性転換マウスにおける卵子形成過程に悪影響を与えている可能性が示唆された。 加えて、周産期の卵母細胞には、異常なレトロトランスポゾン因子の活性化と減数分裂の失敗が検出された。これらの結果からXYsry-生殖細胞では、細胞周期の遅延およびレトロトランスポゾンの活性化という2つの生殖細胞削減プロセスが働いていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究において、マウス生殖系列における性分化の起点とその制御機構を網羅的転写産物およびエピゲノム解析によって明らかにし、論文投稿とともに今後、性転換個体群を解析する際のコントロールデータの収集と解析が完了した。また、性転換個体群の作製と表現型解析もすでに完了し、試料となる生殖細胞ストックも準備できているため、来年度は、これらの試料を対象に包括的転写産物解析 (RNA-seq) およびエピゲノム解析 (MethylC-seq、ChIP-seq) を行う予定である。これにより得られたデータセットを、コントロールデータと同様の方法を用いて解析を行い、性転換マウスにおける卵子形成過程における障害が どのような転写産物およびエピゲノム修飾に起因するか明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたように、解析対象となる試料や解析手法は本年度の研究過程において確立できている。このため、今後何らかの問題が生じなければ研究計画は十分達成できると考えられる。また展望として、上記の包括的転写産物解析 (RNA-seq) およびエピゲノム解析 (MethylC-seq、ChIP-seq)によって、性転換個体の卵子形成に障害を与えうる有害因子候補 (群) を特定できたならば、CRISPR/Cas9システムによるノックアウト実験を行い、得られた個体に生殖細胞形成能の改善が観られるかどうか検証を行う予定である。これらの知見をもとに、基礎生殖科学や発生学の発展に貢献するだけでなく、ヒトの性分化疾患の原因究明に新たな洞察を与える。
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