哺乳類の性決定はXX (雌) またはXY (雄) の遺伝的性に支配され、雄マウスではE 11.5の生殖巣においてマスター遺伝子であるSRYがY染色体上から発現する。この発現が、Sox9などの雄性性決定因子の発現が逐次的に誘起され、これらの雄性性決定因子を発現する生殖巣中の体細胞がPGCを精子形成へと導く。一方雌ではY染色体が存在しないため、SRYによるWnt4などの卵巣決定因子の発現抑制が生じず、雌への性分化が確定する。従って、雄性生殖巣におけるSRYの発現は極めて重要であり、実際この機能が欠失した雄マウスは、Y染色体を保有しているのにも関わらず雌への性分化を起こすことが明らかにされている。しかしながら、これらの性転換マウスは、卵胞数の減少、極体形成異常および減数分裂時の性染色体不対合の多発などの異常により、極めて低い妊性 (近交系は完全な不妊) をもつことが報告されている。従って本研究では、mRNA-seqによる包括的トランスクリプトーム解析と野生型雌マウスとの比較解析を介して性転換マウスにおける異常を同定し、機能的な雌性生殖系列には、どのような因子 (転写産物) が重要であるか明らかにすることを目的とする。加えて、これらの性転換マウスにおける異常は、ヒトにおける不妊症であるターナー症候群やスワイヤー症候群とも一致する。従って、本研究を通して得られる知見は、これらの疾患の原因究明にも役立ち、生殖補助医療技術を支える重要な知見となりうる。昨年度までの研究によって、XY卵子形成過程における生殖細胞崩壊機構の初動と原因因子が同定されたため、本年度ではXY性転換雌マウス由来卵巣から僅かながら得られる成熟卵子が機能的であるかどうか検証を行い、全データを合わせて論文投稿の準備を行った。
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