本研究では、スチリルピレンの [2+2]光環化付加反応を利用した可視光照射によるDNA二重鎖架橋法の開発を行った。 DNAやRNA二重鎖を鎖間で架橋する手法は、生体系の解析などにおいて盛んに利用される。その中において、これまでに我々はスチルベン誘導体の[2+2]環化付加反応を利用した核酸二重鎖架橋法を報告している。しかしながら、上記の方法を含め、これまでに用いられている核酸二重鎖の光架橋法はすべて400 nm以下の紫外光照射を必要としており、生細胞中で用いた場合に細胞障害を生じるなど、その応用の幅は限られていた。そこで本研究では、これまでの紫外光に代えて、可視光をトリガーとした核酸二重鎖架橋法の開発を目指した。 本研究では新たな光架橋剤としてスチリルピレンを用いた。スチリルピレンは、従来のスチルベンよりも拡張されたπ共役系を有しており、可視光による [2+2]光環化付加反応の進行が期待される。まず、架橋反応について検討するため、スチリルピレンを一対導入したDNA二重鎖に対して455 nmの可視光照射を行った。結果、光照射に伴って、[2+2]光環化付加に特徴的な吸収バンドの短波長シフト、および発光強度の減少が見られ、架橋反応の進行が確認された。さらに、架橋された二重鎖に対し340 nmの紫外光照射を行ったところ、逆反応が進行し、反応前の非架橋状態へと選択的に回復することが明らかになった。 以上のように、スチリルピレンの[2+2]光環化付加反応を利用することで、可視光トリガーによる可逆的な核酸二重鎖架橋法の開発に成功した。今後、この架橋法を利用することで、生細胞中における架橋構造の形成・解離の制御および、それに伴う細胞機能の光制御といった応用が可能であると考えられる。
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