研究課題/領域番号 |
15J08708
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
吉田 貴徳 京都産業大学, 総合生命科学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ゲノム防御 / DNAメチル化 / 植物 / ゲノム進化 |
研究実績の概要 |
生命情報はDNAとして細胞内に存在しており、ある生物のもつDNA情報すべてを合わせたものをゲノムという。ゲノムは永久不変の存在ではなく、進化の過程で大きく変わりうる。また、外来配列の挿入により破壊的な影響を受ける脅威にさらされている。破壊的な変化を抑制しつつゲノムが変化していく仕組みを解明することは、生命の進化を考える上で重要である。 近年、外来配列から核ゲノムを防御するエピジェネティックな機構が注目されている。このような機構としてRNA依存的DNAメチル化が知られている一方、RNAi非依存的にDNAメチル化を引き起こす経路の存在も示唆されている。本研究は、植物の核ゲノム内に存在するオルガネラゲノム由来の塩基配列(核内オルガネラ様配列)がDNAメチル化される現象に着目し、RNAi非依存的にDNAをメチル化する機構、およびゲノム防御機構とゲノム進化との関連性の解明を目指している。 平成27年度は、1.シロイヌナズナEMS変異体集団のスクリーニング、2.交配実験とDNAメチル化遺伝様式の観察、3.メチロームデータの解析、をおこなった。1において、核内オルガネラ様配列のDNAメチル化が低下する変異体の検出を試みたところ、クロマチンリモデリングに関与する事が示唆されるddm1変異体を検出した。2においては、オルガネラ様配列のDNAメチル化レベルが異なる系統同士の交配により、F1のメチル化状態が変化することが示唆された。オルガネラ様配列のDNAメチル化制御に加えて、より広義にエピジェネティクな変異の創出や遺伝のメカニズムを考える上で興味深い現象である。3においては、系統間に見られるメチル化レベルの異なる領域の情報を抽出した。今後オルガネラ様配列のメチル化状態の違いや他領域との比較等を定量的におこなっていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に従い、1.シロイヌナズナEMS変異体集団のスクリーニング、2.シロイヌナズナ自然集団の系統を用いた交配実験とDNAメチル化遺伝様式の観察、3.公開されているシロイヌナズナ自然集団のメチロームデータ解析、をおこなった。予定した実験および解析については全てに着手しており、一部は既に終了した。 1については4つの核内オルガネラ様配列を指標にしてスクリーニングをおこない、6つの変異体が検出された。予備実験によりオルガネラ様配列のDNAメチル化を低下させることが分かっている既知の遺伝子について塩基配列を確認したところ、すべてがクロマチンリモデリングに関与することが示唆されているDDM1の変異体であることが分かった。このため、スクリーニングを開始するにあたって期待した、オルガネラ様配列のDNAメチル化に関与する未知の遺伝子を検出することはできなかった。このことから、このようなスクリーニング実験によってオルガネラ様配列のDNAメチル化に関与する未知の遺伝子を検出することは困難である事が示唆された。 2についてはCol系統とLer系統を相互交配し、F1、F2集団を作成した。また、それぞれの系統に戻し交配をおこなったBC1集団を作成した。これらの個体の葉から抽出したgDNAをバイサルファイト処理し、特定のオルガネラ様配列を増幅させるプライマーセットを複数用いてPCRした増幅産物を大規模シークエンサーにて解析した。現時点では結果を解析中であり、当初の予定よりやや解析が遅れている。予備解析の結果では、F1でのDNAメチル化状態について興味深い傾向が見られている。 3については、系統間にみられるDNAメチル化レベルの異なる領域を探し、両系統のDNAメチル化情報を抽出した。計算機環境の整備に時間が掛かり、当初の計画よりやや進展が遅れている。今後解析に注力する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画においては、初年度のスクリーニング実験で検出された候補遺伝子について、次年度に詳細な解析をおこなう予定であったが、実施したスクリーニング実験の結果からは、新奇の候補遺伝子を検出することができなかった。このため、次年度以降の研究は、交配実験によるDNAメチル化状態の遺伝様式、およびメチロームデータのバイオインフォマティックな解析に重点をおいて展開する必要があると考えている。 これまでに実施したシロイヌナズナCol系統とLer系統を用いた交配とDNAメチル化状態の解析からは、両親系統でオルガネラ様配列のDNAメチル化状態が異なる場合に、F1集団においてメチル化状態が変化する傾向が見られている。F2集団の実験結果についても詳細に解析するとともに、解析に用いる領域や系統を追加する必要がある。また、戻し交配を続けた場合や、F2以降の集団においてDNAメチル化状態の変化に方向性があるかについても、交配を継続して解析する必要がある。 シロイヌナズナ自然集団のメチロームデータ解析においては、オルガネラ様配列DNAメチル化状態の違いや他の領域との比較を定量的におこなう必要がある。計算機環境については初年度に整備が進んだため、次年度では他系統のメチロームデータ解析を進める予定である。これらの解析で検出されたメチル化状態の変化については、交配実験による解析や系統間の分子進化学的な比較解析をおこなっていく。
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