平成28年度は、前年度作出したゼニゴケmicroRNA(miRNA)変異株の解析を主に行った。CRISPR/Cas9を用いてMIRNA遺伝子座を標的として作出したmirna変異株の1つは、本来栄養成長を続ける葉状体が生殖器様に形態が変化していた。雌雄個体ともに生殖器様の形態を示したことから、このmiRNAは雌雄決定因子ではなく、栄養成長期から生殖成長期への相転換を通常時抑制していることが推測される。詳細に表現型を解析するため、変異体の走査型電子顕微鏡を用いた観察および切片観察を行なった結果、雄株の葉状体は精子を形成し、雌株の葉状体には造卵器が形成されていた。以上の結果から、このmiRNAはゼニゴケの栄養成長期から生殖成長期への相転換抑制因子であることが強く示唆された。 miRNAは相補的な配列を持つmRNAに結合することで、標的遺伝子の発現を抑制するはたらきを持つ。そこで次に、表現型の原因となる標的遺伝子を同定することにした。前年度の研究により、プログラムによって塩基配列の相補性を元に行なったmiRNAの標的遺伝子予測、およびRACE方を用いた標的mRNAの切断部位同定の結果から、標的遺伝子としてすでに予測されていた遺伝子をRT-qPCR法によって定量し、変異株においてmRNAの蓄積量が増大していることがわかった。次にmiRNAと相補度合いの高い結合配列を、アミノ酸配列が変化しないよう同義置換した遺伝子配列をクローニングし、ベクターを用いて野生型植物体に遺伝子導入した形質転換体を作出した。miRNA耐性遺伝子の形質転換植物体は、雌雄ともにmirna変異株と同様に葉状体が生殖器官様に分化する表現型を示したことから、mirna変異体の表現型は、標的遺伝子の転写後発現抑制の欠損が原因であるということが強く示唆された。
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