平成29年度は、初期宇宙の超巨大BH の種となるBH が形成される過程として高密星団中での星の暴走的衝突合体モデルに着目した。この過程による星団内での大質量星形成・種BH 形成の宇宙論的に一貫した研究は少ない。実際にこの暴走的衝突モデルによる種BH 形成が確からしく起きるかどうかを数値シミュレーションで直接的に示した例はKatz et al. (2015) の1例だけであり、モデルの有効性について議論の余地がある。特にKatz et al. (2015) ではミニハロー内で形成される星団にのみ着目していたため、より重い原始冷却ハローで形成される星団において星の暴走的衝突が起きるか否かは明らかになっていない。 そこで本研究では、宇宙の初期密度ゆらぎから原始冷却ハローができ、高密星団ができて大質量星・種BH が形成するまでの過程を、宇宙論的シミュレーションと星団力学のN 体シミュレーションを組み合わせて追った。まず、宇宙論的シミュレーションによって宇宙の初期条件から物質の密度進化を追い、赤方偏移10-20程度で異なる8個の原始冷却ハローを同定した。この原子冷却ハロー内で星団が形成されると想定し、星形成効率と星の質量関数を仮定してN体シミュレーションの初期条件である星の空間分布を生成した。これらの星団それぞれについてN体シミュレーションによる星団力学進化を追ったところ、全ての星団で星の暴走的衝突が確からしく起きることを示し、400-1900太陽質量程度の大質量星・種BH が形成されることを示した。
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