研究課題/領域番号 |
15J08833
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮﨑 弘安 東京大学, 数理科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | モデュラス付き高次チャウ群 / モデュラス対 / 非効果的なモデュラス対 / cube不変性 / ホモトピー不変性 / モチーフ理論 / モティヴィック・コホモロジー |
研究実績の概要 |
背景:ビンダ-齋藤により導入されたモデュラス付き高次チャウ群の一般化に関する研究を行った。モデュラス付き高次チャウ群は、代数多様体とその上の効果的なカルティエ因子の組(これをモデュラス対という)に対して定まる。カルティエ因子が自明なら代数多様体の高次チャウ群に対応する。高次チャウ群は具体的な生成元と関係式から定義されるため扱いやすく、多様体のモティヴィック・コホモロジー群と比較同型をもつためモチーフ理論的にも重要である。しかし近年、高次元類体論などの数論的な分野に応用するには不十分な概念であることがわかってきた。この問題を克服するため考案されたのがモデュラス付き高次チャウ群である。ホモトピー不変性(=任意の多様体Xに対し自然な射影X×A→X(Aはアファイン直線)が誘導する高次チャウ群の写像は同型であるという性質)を始めとした高次チャウ群の基本性質をモデュラス付きに一般化することは重要である。
実績:ホモトピー不変性をモデュラス付きに一般化するため、モデュラス付き高次チャウ群を因子が「非効果的」な場合も含めて拡張して定義し、基本的な関手性を証明した。この準備のもと非効果的なモデュラス対C=(P,-∞)を考え(Pは射影直線、∞は無限遠点)、任意のモデュラス対Xに対し自然な射影X×C→Xが誘導するモデュラス付き高次チャウ群の写像が同型であることが証明した。これをcube不変性と呼ぶ。Cube不変性は高次チャウ群のホモトピー不変性の完全な一般化である。さらに、cube不変性を応用することで、標数p>0の体上ではモデュラス付き高次チャウ群は係数においてpを可逆化すればホモトピー不変性をみたすことを確かめた。これによりモデュラス付き高次チャウ群の特に興味ある部分はp部分であることが結論される。非効果的な因子を考えることで効果的な場合にも意味がある結果を得ている点に本研究の重要性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初はホモトピー不変層の代わりに相互層を用いたモチーフ理論に関する研究を行っていたが、年度の途中で相互層よりもcube不変層が相互層よりもより基本的な概念であることがKahn-齋藤-山崎によりアナウンスされた。またモデュラス付き高次チャウ群の定義がBinda-齋藤により発表された。これらの定義はこれまで試行錯誤されてきたホモトピー不変層の一般化の研究の決定版と考えられるので、相互層の研究をcube不変層とモデュラス付き高次チャウ群の研究に置き換えてモチーフ理論を研究することにした。この若干の方針転換により研究が一時期停滞したが、モデュラス付き高次チャウ群とcube不変層の関連性について熟考するうちに、モデュラス付き高次チャウ群に対して適切な不変性を定式化するためには従来のモデュラス対の概念では不十分であるという洞察に行き着いた。 この着想にもとづいてモデュラスを因子が非効果的な場合に拡張すると、非常に自然かつ完全な形でホモトピー不変性の一般化としてのcube不変性をモデュラス付きチャウ群に対し定式化し、証明することができた。また、モデュラス付き高次チャウ群のp部分を無視すればホモトピー不変性が成立しているという思いがけない応用を得ることも出来た。このことは、因子が効果的な場合について非自明な結果を得るためには非効果的な因子を考えることが重要であることを示唆しており、上記のモデュラスの一般化は従来の理論に重大なインパクトをもたらすものと考えられる。研究の方針転換のために論文をまとめるのに時間がかかってしまったものの、研究の内容自体は当初の予想を越えて大きく進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況でも述べたように、モチーフ理論の一般化の研究において相互層よりも適していると考えられるcube不変層、およびモデュラス付き高次チャウ群に関する研究を行っていく。これまでに行われてきた研究はすべて有効な因子を持つモデュラス対に対してしか考察されていない。このために問題の定式化や証明を自然に行えない面が多々あったと考えられる。この一例が、筆者が証明したモデュラス付き高次チャウ群のcube不変性である。したがって、従来のモデュラス理論を非効果的な因子を含む形ですべて一般化することは重要かつ有望な課題であると考えられるので、これについて研究を推進する。 具体的にはKahn-齋藤-山崎によって構成されたモデュラス対のモチーフの三角圏を非効果的な場合を含む形で再構成する研究を行う。このように拡張された三角圏には、Kahn-齋藤-山崎によるモチーフの三角圏を忠実平坦な部分圏として含むと予想されるので、この証明も試みる。 また、モデュラス対のモチーフに対する双対性は非効果的な因子を用いることで非常に自然な形で定式化することができると予想される。双対性を正確に定式化するとともに、どの程度まで成立するかを研究する。双対性が証明できたらそれを利用してモデュラス付きの高次チャウ群とモティヴィックコホモロジー群の比較同型が得られると考えられるので、この証明にも取り組む予定である。
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