代数方程式系を調べる際に、それを代数多様体と呼ばれる幾何学的な対象に変換して調べると有効であることが広く知られている。これは、複素数を係数とする方程式系の場合、その零点集合を図形と見なすことに対応する。代数多様体の研究には、代数トポロジー理論で培われてきた技法やアイディアを用いる。その代表例はコホモロジー群である。代数トポロジー理論における特異コホモロジー群の、代数多様体に対する類似は高次チャウ群と呼ばれる群である。高次チャウ群は代数多様体の様々なコホモロジー群をある意味で統制する普遍性を持ち、モチーフと呼ばれる対象のアーベル群への化身とみなせる。高次チャウ群は代数多様体の幾何学的な性質を非常に良く捉える重要な研究対象である。しかし、高次チャウ群は、代数多様体の重要な情報を失ってもいる。例えば、代数多様体のK群は、高次チャウ群を用いて記述することができない。高次チャウ群はホモトピー不変性とよばれる、やはり代数トポロジーから持ち込まれた性質を満たすが、K群はこれを満たさないからである。近年、このような難点を克服するため、モジュラス付き高次チャウ群が導入された。これは高次チャウ群の一般化で、K群をよく記述するコホモロジーだと期待されている。 今年度は、モジュラス付き高次チャウ群の「ホモトピー不変性からの差」を測る群として冪零高次チャウ群を導入し、その上にヴィット環と呼ばれる代数からの作用を構成した。また、系として、冪零高次チャウ群の構造や、消滅するための条件を得た。すなわち、モジュラス付き高次チャウ群が、ホモトピー不変な群に比べてどの程度、多くの情報を持っているかを理解できたことになる。また冪零高次チャウ群はK群に対して定義された冪零K群の類似であり、冪零K群にも同様にヴィット環の作用が入る。このことはK群をモジュラス付き高次チャウ群が記述するという期待への根拠を与えている。
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