研究課題/領域番号 |
15J08863
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小島 邦生 東京大学, 情報学環・学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ヒューマノイド / ワイヤ駆動型減速機 / 回転滑り接触 |
研究実績の概要 |
ヒューマノイドによって歩行や走行といった一般的な動作だけでなくダンスの様に「感性価値」として表現力のある動作を実現する為にハードウェアと制御の双方向からのアプローチにより研究を進めている.ダンスの様な動的全身動作をヒューマノイドが行なう為には,(1)人と同程度の高速大出力性能や(2)高剛性な骨格,(3)人と類似した身体構造,(4)広い可動域,(5)軽量なボディを有する必要がある.また,環境と多様な接触状態を実現する為に(6)関節を柔軟に制御可能でなければならない.平成28年度は(1)~(6)を実現できるようなワイヤ駆動型減速機の開発と(6)に対応する為の回転滑り接触時の全身動作制御法を構築した. ダンスのようなダイナミックで美しい動作を実現するには(1)~(6)の全ての設計仕様を同時に満たすことが重要である.なぜなら例えば見た目の美しいロボット(3)でも関節可動域が広く(4)なければ人に習って様々な美しいポーズをとることはできず,出力の大きなロボット(1)でも全身が軽量(5)でなければダイナミックで高速な動作を行なうことはできないからである.しかし,(1)~(6)の設計仕様は高速大出力性能(1)と軽量なボディ(5)の様に相反するものもあり全てを同時に実現するのは困難である.本研究ではこれらの課題を解決する為にワイヤ駆動型減速機を開発しヒューマノイドの関節駆動部分に適用する.平成28年度はその減速機の単軸試験機を開発した. 制御面では平成27年度に構築した並進滑り接触時の制御法を拡張することで回転滑り接触時の全身制御手法を確立した.これによりターンの様に接触面が環境に対して回転しながら滑る動作を実現できる.滑りターン動作はダンスに不可欠であるのは当然ながら,足の踏み変えによるターンよりも高速かつ滑らかに安定して方向転換を行えるため,ヒューマノイドの移動性能の面でも重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,ハードウェア開発について説明する. 本研究では表現力のある全身動作のためのヒューマノイドのプロトタイプとしてJAXONを開発した.この成果は査読付き論文誌にて掲載され(日本ロボット学会誌2016),同内容の発表が評価されロボット分野を代表する権威有る学会にて研究奨励賞に選ばれた(日本ロボット学会研究奨励賞2016).この旧型JAXONは設計仕様(1)(2)を満たしていたものの,(3)~(6)の設計仕様を満たせてはいなかった為,平成28年度は(1)~(6)の設計仕様を全て満たせる様なヒューマノイドの関節機構としてワイヤ駆動型減速機の開発を行った.単軸試験機を製作し強度や目標軌道追従性,外乱応答性などを試験し(1)(6)を満たすことを確認している.また,ワイヤ駆動型減速機とモノコック構造を組み合わせることで関節駆動機構と骨格構造を統合した新たな身体構造を開発中である.この構造により高剛性(2)でありながら軽量な身体構造(5)を実現できると期待される.旧型JAXONでは2.3kgだった大腿部の骨格を約3分の1の0.8kgにまで軽量化可能であることを強度解析シミュレーションにて検証済みである. 次に制御について説明する. 本研究では平成27年度にロボットが環境に対して平行に滑る際の制御法を確立したが,この理論ではターンの様な回転滑り動作軌道を生成することはできなかった.なぜなら,並進滑り接触では環境と接触面の滑り速度と滑り摩擦力が接触面内で一様であったが,回転滑り接触では接触面内の位置に依存して摩擦力が異なるため接触制約条件の立式が困難だからである.平成28年度は接触面内のちから分布を離散化した新たな接触制約記述法を提案することで回転滑り接触制約を立式化できるようにした.これを以前開発した制御に組み込むことで回転滑り接触時の全身動作を生成できるようになった.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず,平成28年度に開発したワイヤ駆動型減速機を用いたヒューマノイド新型JAXONの設計・製作を行ない,続いて新たに開発した回転滑り接触対応の全身動作制御手法を用いて新型JAXONを制御する. 新型JAXON開発の際には(3)(4)を考慮しながら脚部から順に設計開発を行なう.2つの関節が互いにが干渉する2軸直交関節(足首や手首等)関節では,広い可動域(3)を確保しながらコンパクトな関節(4)を設計することが一般的には相反していて困難である.しかし,ワイヤ駆動型減速機は内部が中空であるため,2軸直交関節でも広可動域小型関節を設計することが可能である.また,単軸試験機により関節で高トルクを発揮する際に減速機のワイヤが伸びて制御追従性が悪くなる問題が確認されている.この問題に関してはワンウェイ・ダンパを用いたテンショナによりワイヤの伸びを一時的に吸収し制御の追従性を向上する予定である. 制御面では新型JAXONの柔軟に制御可能な関節(6)を活かして環境との多様な接触状態を実現する.旧型JAXONを始め従来のヒューマノイドは関節剛性が高いため,外力に対して柔軟に馴染むような動作を行なう場合,力センサで外力を計測しながら各関節を制御する必要があった.力センサは手先や足先に搭載され手先・足先に加わる力のみ計測可能なため,手先・足先以外の肘や膝で環境と接触するような動作は困難であった.しかし,新型JAXONは関節内部の摩擦損失が小さく関節剛性を下げて制御できるため,力センサで外力を測定しなくても環境に馴染むような柔軟な関節制御が可能である.従ってこれまで開発してきた滑り制御を新型JAXONに適用することで,膝や肘など手先・足先以外の部分で環境と接触する様な環境との多様な接触動作が可能になると期待されている.
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