研究課題
超新星残骸(以下、SNRと略す)での宇宙線加速過程と加速された宇宙線の最高エネルギーは現代宇宙物理学最大の謎のひとつである。現在広く受け入れられている加速機構によると、これらは磁気乱流の性質に強く依存する。これまでの先行研究では、高効率な宇宙線加速によりSNRの衝撃波構造や磁場構造が変調する一次元モデル(以下、標準モデルと呼ぶ)が特に注目されてきた。SNRでの宇宙線加速効率は、水素バルマー輝線放射の固有運動から測定された衝撃波速度が予言する下流の温度と実際の下流の温度との差異から見積もられており、いずれのSNRでも衝撃波構造を変調しうるほど十分高い。また近年、現実的な星間媒質の密度非一様性を考慮するだけでSNR衝撃波が波打ち、下流で乱流ダイナモ機構により磁場が増幅されることが多次元の磁気流体シミュレーションにより指摘されている(以下、非一様モデルと呼ぶ)。この磁気乱流駆動機構はSNRで必ず起こるため、非一様モデルは宇宙線の起源に新たな視点から迫るものとして期待されている。本研究ではSNRの電波シンクロトロン放射の偏光観測から磁気乱流スペクトルを解析する手法を開発することを目的とし、不定性の少ない非一様モデルで解析を進めている。その過程の中で、非一様モデルでは衝撃波面が波打つことにより衝撃波面接線方向成分のエネルギーフラックスが散逸されず、たとえ宇宙線加速を考慮していなくても、衝撃波速度が予言する下流の温度と実際の下流の温度との間に差異を作ることに注目してきた。当該年度では非一様モデルからのバルマー輝線放射を計算し、実際の観測と同様な手法で宇宙線加速効率を擬似測定した。その結果、先行研究で見積もられた宇宙線加速効率には星間媒質の密度揺らぎの振幅程度の不定性があることを複数のパラメーターのシミュレーションを基に示し、さらにそれとおおまかに一致する準解析的な評価を得た。
2: おおむね順調に進展している
本研究はSNRでの宇宙線加速過程と加速された宇宙線の最高エネルギーを解明するために理解が不可欠な磁気乱流の性質を、電波シンクロトロン放射の偏光観測から解析する手法を開発することが目的である。SNRで期待される磁気乱流の起源には宇宙線自身が背景流体に影響を与える標準モデルによるものや、SNR衝撃波が星間媒質の密度非一様性によって衝撃波面が波打ち下流で乱流ダイナモ機構により磁場が増幅する非一様モデルによるものなどが考えられる。これまでの先行研究では標準モデルが注目されてきたが、これは最新のX線とガンマ線の観測を同時に説明できていない。そのため、標準モデルの見直しや多次元の効果の精査が課題となっている。当該年度の研究では星間媒質の効果を考慮した多次元の非一様モデルによって、先行研究で示唆されていた高い宇宙線加速効率には星間媒質の密度非一様性の振幅程度の不定性があることを示した。我々の数値計算結果によると、典型的な星間媒質を再現した場合は衝撃波の運動エネルギーのうち最大約40 %が散逸されず、見かけの宇宙線加速効率が大きくなる。これは当該分野に対して非常に大きいインパクトを与えた。さらに精密に非一様モデルの影響を調べるため線形理論に基づき衝撃波を解析している。当該年度では磁気流体シミュレーションを行って予定どおり磁気乱流場を得た。このシミュレーションデータを基にシンクロトロン偏波の解析コードを作成している。一方でSNRでの宇宙線加速過程と磁気乱流の性質に対する非一様モデルの重要性がより強固なものになるので、上述の研究を行った。また、非一様モデルの線形解析はシンクロトロン放射の偏光解析の結果を正確に解釈するために必要な作業でもあったので、研究の実質的な進捗の遅れは少ない。
報告者の現在までの研究は磁気流体シミュレーションデータを用いて、SNRでの宇宙線加速効率の推定には星間媒質の密度揺らぎの振幅程度の不定性があることを示した。しかし、これらは限られたパラメーターでしか調べられていない。今後はより広範囲なパラメーター領域を調べるため、SNR衝撃波を線形理論に基づいて解析し、宇宙線加速効率の推定と星間媒質の非一様性との関連を正確に調べていく。また、この線形解析結果をシンクロトロン偏波の解析に応用し、それと同時に非線形となるパラメーター領域を磁気流体シミュレーションにより計算し、線形理論の結果と比較しながら相補的に理解していくことを目指す。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)
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