本研究は、ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)に焦点をあて、子どもの教育上、親がその第一義的な役割を果たす場を教育環境と措定し、この親の行動に影響を与える要因を制度に着目した視点から探ってきた。昨年度の研究では、障害をめぐるフォーマルな制度の発展には1991年と2006年という2つの画期があり、時系列的に見るとこのフォーマルな制度が発展した後になってインフォーマルな制度が展開されてきたことがわかった。そして、政府はフォーマルな制度において障害児への教育保障を図ったが、インフォーマルな制度で実質的な個々のニーズへの対応がなされており、「教育の社会化」政策を軸にした総体的な教育保障が図られていることが明らかになった。また、インフォーマルな制度の特徴としては障害児のための「センター」の展開が挙げられる。これまでベトナムの障害児を対象とした学校以外の教育活動については、教育や医療サービスを提供する施設である「センター」が近年ベトナムで増えおり、特に「有限会社」として運営される民営センターや、個人が運営するそれが確認された。また、「教育の社会化」政策は、資源を有する人々に対して教育領域であるか否かを問わず障害児のための教育活動を行うための動機付けとして機能している側面があり、「教育の社会化」政策では学校教育の多様化をとおしその拡充が図られたが、政府の意図しないかたちで学校ではない障害児のための民営センターに対して、間接的な影響を与えていることがわかった。 ただし、学校外の「センター」の展開が、選択や選好といった親の行動様式とどのような関係にあるかについて、今後精査する必要があるため、統計資料を積極的に用いながら包括的な視角から制度形成の過程を分析していきたい。
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