研究課題/領域番号 |
15J08972
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山野井 一輝 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 土砂災害 / マルチハザード / 斜面崩壊 / 警戒避難 / 水災害 / 土砂災害警戒情報 |
研究実績の概要 |
土砂災害時には直接人的被害が生じる大規模現象だけでなく,直接人的被害は生じないが避難を阻害する比較的小規模なハザード群が発生する.当研究課題は,これを考慮した数値シミュレーションを実施することで,警戒避難システムの高度化に資する知見を得ることを目的としている.2015年度は,シミュレーション手法の確立を目的に,筆者がこれまでに構築してきた土砂動態モデルの改良と,妥当性・適用性の検証を実施した. モデルの改良には,筆者らがこれまで構築してきた土砂動態モデルに,土中水分量を指標とした斜面崩壊モデル(Chen et al., 2014)と,地形的特性と土砂の堆積角を考慮した崩壊土砂の河道への供給モデルを組み込んだ.さらにモデルから得られる指標(降雨強度,土中水分量と限界値の比,河道水位と限界値の比)を用い,降雨・崩壊・洪水にそれぞれ関連する小規模ハザード群の発生リスクレベルを面的・時間的に評価する手法を構築した. 次に平成26年に兵庫県丹波市前山川流域で発生した土砂災害を対象に,実際の降雨データを用いて検証計算を実施し,妥当性を検証した.計算の結果,斜面崩壊モデルで算出される土砂生産量や,河道の水位上昇が発生する時刻が,災害後の調査結果と比較して精度よく再現できていることを確認した.また,土砂災害に対する脆弱性が認められる京都府宮津市の山間集落を対象として,異なる特性を有する複数の降雨データを用いた適用を行い,降雨特性に応じた適切な避難手法について検討した.適用の結果,特に強度が大きく降雨期間が短い雨に対しては,降り始めから被害が生じるまでの間の屋外行動が困難であり,鉛直避難等の屋外での移動を伴わない避難手法以外に選択肢がない状態に陥る可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度の研究で,本研究に必要なシミュレーション手法の構築を概ね実施できた.なお計画時には洪水関連ハザード群の発生指標評価に2次元氾濫解析を用いることを予定していたが,検証計算の結果から,河道水位を指標とするのみである程度予測が可能と判断し,現時点で実施していない.また2016年度,降雨強度や総降雨量の異なる複数の降雨データを用い,ハザード群発生特性の評価を実施する予定としていたが,現時点で既に京都府宮津市の流域を対象に一部実施している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでも実施してきた降雨特性に応じたハザード群発生特性の評価を継続して実施する.この時,土壌雨量指数と60分積算雨量を軸とした平面(土砂災害警戒情報の発令に用いられているものと同様のもの)上にハザード群の発生指標をプロットすることで,降雨特性に応じてどのような対応が求められるか,考察を進める予定である. また,現在までの手法では,降雨・崩壊・洪水に関連するハザード群のみを対象としており,河岸侵食や倒木・落石等,実際の災害時に避難の阻害を引き起こす他の要因が考慮できていない.そこで,河床位や風速,斜面表面流等を指標とすることで,以上の要素を表現できるようにシミュレーション手法を改良する予定である. さらに,構築した計算手法を降雨予測と組み合わせてリアルタイムに運用し,数十分や数時間後までのハザード群発生予測ができれば警戒避難に大きく資するものと期待できる.しかし,現時点では実績降雨を用いた適用しか実施していないため,運用時に各時点でどれだけの質の情報が出せるかは不明である.そこで2016年度,予測降雨を用いた検証計算を行うことを予定している.
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