研究課題/領域番号 |
15J09082
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
西山 直毅 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 環境・エネルギー材料部門, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 吸着 / 水飽和率 / 岩石 / 不飽和帯 / 水膜 |
研究実績の概要 |
地下水面よりも上方の岩石間隙は、水と空気が混在した不飽和状態となる。空気で満たされた間隙であっても、その表面は薄い水膜によって覆われており、反応することが指摘されている(Nishiyama & Yokoyama, 2013)。したがって、不飽和状態における鉱物-水反応を定量的に予言する上で、水膜の性質(厚さや物質移動のしやすさ)を理解することは重要である。そこで本年度は、岩石間隙中の水膜がどの程度の厚さで存在しているのかを調べた。 Berea砂岩、India砂岩、白浜砂岩、Bentheimer砂岩、Indiana石灰岩、支笏凝灰岩を、様々な相対湿度に調整した密閉容器内に入れ、質量の変化を調べた。質量の増加量から間隙表面に吸着した水膜の質量が分かり、別途窒素ガス吸着法(BET法)で表面積を測定すれば、[水膜の質量 (kg)]=[表面積 (m2)]×[水膜厚さ (m)]×[水の密度 (kg/m3)]の関係式から、岩石中の水膜の厚さを評価することができる。相対湿度46%以下では、水膜厚さは鉱物組成や間隙構造の違いに依らず、いずれの岩石でも約0.4 nmであった。また、相対湿度75%以上では、湿度の増加に伴い水膜厚さは増加し、最大で5 nm程度まで厚くなることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既存の吸着モデルを発展させ、水膜と鉱物界面のイオン吸着量をシミュレートしたところ、水膜の厚さに応じて吸着量が変化することが示唆された。そこで本年度は、様々な相対湿度における岩石の質量変化を調べ、岩石中の水膜の厚さを評価した。今後は、イオンを含む水を岩石へ流しイオン吸着量を調べる「透水吸着実験」を様々な水飽和率で行い、水飽和率とイオン吸着量の関係を評価する。飽和/不飽和状態の吸着量を比較することで、イオン吸着に対する水膜の役割を明らかにしていく。 来年度は、水膜中の溶存イオンの分布やダイナミクスを詳細に理解するために、分子動力学(MD)計算を行う予定である。本年度はその準備として、2つの石英表面に挟まれた水の中をナトリウムイオンやケイ酸イオンが拡散する速さを調べるMD計算を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、岩石コアを用いて透水吸着実験を行い、飽和状態と不飽和状態におけるイオンの吸着量を調べる。飽和/不飽和状態のイオン吸着量を比較し、吸着現象に対する水膜の役割を明らかにする。具体的には、前年度の実験によって既に水膜厚さが分かっているBerea砂岩を試料として用いる。また、吸着質としてLiイオンを用いる予定をしている。Liイオンを採用する理由は、前年度にBerea砂岩から溶出するイオンの種類を調べたところ、Liイオンはほとんど溶出せず、吸着に影響しないと判断したためである。 また、石英と空気(真空)の間に水分子とイオンを配置することで水膜を模した系を作成し、MD計算を行う。さまざまな厚さに調節した水膜中の溶存イオンの分布やダイナミクスを詳細に調べ、透水吸着実験で得た飽和/不飽和状態のイオン吸着挙動を分子レベルから解釈する。
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